すべてが猫になる

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ハサミを持って突っ走る /Running with Scissors (ねこ3.8匹)

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オーガステン・バロウズ著。バジリコ。

アメリカに生まれ育ったオーガステン少年の、13歳から18歳までの回想記。
アル中の父と精神病の母に放り出され、患者のような精神科医の奇妙な家で過ごした、
痛ましくも可笑しい少年時代。(帯より)
ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーリストに52週連続ランクイン、著者は2004年
「エンターテインメント・ウィークリー」の「アメリカで最も面白い人物25人」に選ばれた。

紹介文では華々しい経歴を連ねたが、実際日本ではあまり知られていない作家・作品ではないかと
推察する。案の定自分もbeckさんの記事に惹かれこそこそと入手した。
(バジリコなんて出版社も初めて聞いた^^;)
本書はジャンル分けするとノンフィクション。だが、読み始めてすぐに思った。
これは小説として楽しめる本だ。本の体裁にするにあたり虚飾が施されているのかどうかは
わからないが(多分してないと思う)、なんせオーガステン少年の身の回りの人々は全員
どうかしている。ネタじゃないかと懸念するぐらいだ。母に半分見捨てられ、母の主治医である
フィンチ先生の家で暮らし始めるのだがそのフィンチ先生の家族がなんともけったいで
笑ってしまう。本人達はきっと洒落にならないくらい真剣に生きていて、こうして遠く海を越えて
自分が笑いをこらえている姿なんてとても当事者の方々にはお見せ出来ないが、
だって可笑しいんだからしょうがない。
そもそも、この小説がこれほど重たく悲惨な状況を内包しながら書きっぷりが軽妙で
それを感じさせないのだ。
文章家としてはぎこちなさも感じるが、オーガステン少年の台詞やナタリーとの会話が絶妙で、
ぎくりとするほどに痺れるフレーズが飛び出して来る。少年が成長すると共にそれが顕著だ。

とってもクレイジー。だけどちょっとまぶしい。
「たった二つの凄い事」、がんばれオーガステン。少なくとも一つは叶っている。
今も彼は心にハサミを持っているのだろうか。