すべてが猫になる

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魔王  (ねこ3.7匹)

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伊坂幸太郎著。講談社

会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。5年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。



今まで色々な作風で楽しませてくれていながらも、さらにまた新しいものを提供してくれたな、という感触。カリスマ性を持つ政治家の出現と、日米、日中問題憲法改正案、ファシズム。そして主人公兄弟の超能力。

ストレートにメッセージ色を出したものは、作家の人気と文章力があれば読者に強い精神的影響を与えると思う。ネットの情報と同じく「自身で考える」という機会が奪われているように感じてしまうのだ。だから基本的にはこの小説は苦手。しかし、相手をむりやり論破しても相手の考えは変わらない、現代人はそこに流れてくる娯楽や情報をただ眺めているだけなのに人生は短いと言う、など考えさせられるくだりは何度もあった。明確なメッセージが放出されていない点は好みの分かれる所かもしれないが、むしろ自分はこのテーマと対照的な軽妙さに伊坂幸太郎らしさを感じた。