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幻の女/Phantom Lady (ねこ4.3匹)

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イリアムアイリッシュ著。ハヤカワ文庫。


妻と大喧嘩の果てに夜の街を1人さまよっていた男は、オレンジ色に羽根つきの奇妙にアンバランスな
帽子をかぶった女に出会い、そのままカジノ座へ向かった。女の名前も素性も詮索しないまま、
その晩は女と別れたが、家に帰ると妻が何者かに絞殺されていた!凶器は男のネクタイだった。
しかも、彼のアリバイを証言してくれるはずの人間達は揃ってあの夜の男に連れはいなかったと
言う。男は容疑者となり、死刑を求刑される。無実を証明してくれる唯一の「幻の女」はどこに!?



国内で本書が翻訳化されてから、実に50年経過していると言う。その間、どこのミステリー・
ランキングでも顔を出し続けている。ハヤカワ書房編「ミステリ・ハンドブック」『読者が選ぶ
海外ミステリベスト100」での圧倒的首位に輝いてもいるとのこと。こりゃ凄い。

そんな本書の感想と言えば、真っ先に「面白かったー!」に決まっている。
ううむ、本当にこれは面白かった。
サスペンスはちょっとなー。。タイトルがハードボイルドチックだしなー。。と二の足を
踏んでいた自分は大バカだ。ちょっと読み始めるともう世界が変わった。テンポのいい
流れるような翻訳と、展開の奇妙さ。ありがちな殺人事件が、ちょっとした小道具と
文章の意外なユーモア感でたちまちこれまで読んだことのない物語へ連れ去ってくれる。

真相についてはちょっと考えれば見当はつくのだが、楽しめるのはその結果ではなく
後からわき上がって来るあのシーン、あの台詞の周到さと、伏線の巧さ。
普通に読んでいて楽しいのだが、真相を知ってから思い返すと印象的だったくだりが
全く別の意味を持って目の前に現れるのだ。ぞくっとしてしまう。


「評判のいい本は自分には当たらない」そんな寝言をうだうだ言ってないで、とりあえず
読んでみた方がいい。それらの全てが合わないわけはなく、当たった時が大きい。
合わなかったら「怒ってはいおしまい」でいいしね。
こうやって「大好きな本」と聞いて思い浮かべる本がまたもう1冊増える方が貴重だ。