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魔術はささやく (ねこ3.4匹)

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宮部みゆき著。新潮文庫

守は両親を亡くし、伯父の家に引き取られて暮らしていた。実の父は横領事件を起こし、失踪中。
さらに、タクシー運転手である伯父が人身事故を起こしてしまう。伯父は、被害者の女性が信号無視をし、急に飛び出して来たと言う。伯父は嘘をつく人間ではない。辛くも目撃者は存在しなかった。
一方、何の関連もなさそうな女性達が次々と不可解な死を遂げるという事件が相次いでいた。
守は知らないうちに事件の渦中にーーー。
日本推理サスペンス大賞受賞作。


どうも私はまだ先日の泥沼本「殺人の門」の読後感を引きずったままのようで、はっきり言って
こういう内容ですらまだ読むのが辛かった。まだ少年のうちからこういう理不尽な経験、境遇に
おかされる守の立場、心情が重たくて心に棘がちくちくと刺さる。勘弁して欲しい。。
そのせいではないと思うが、正直少し期待はずれな作品だった。

人物描写、比喩の素晴らしさには感嘆のため息が溢れ出て止まらないものの、
ミステリー小説としては若干の物足りなさは否めない。
一見何の関連もなさそうな事柄が一つところに収束していく様は見事であるが、
肝心の真相がアレはないんじゃないだろうか。。という、ミステリー読みなら必ずぶつかるだろう
不満がまとわりつく。そこには「レベル7」で感じたようないい意味の意外性、突飛性は皆無で、
社会問題としての掘り下げ足りなさしか残り得ない。

しかし、ラストまで読むと宮部氏がこの作品で書きたかったテーマと、自分が求めたものとの
ズレを感じてちょっと恥じ入った。テーマというより「このシーンを書きたかったのか!」と
思う事しか出来なかったが、もう少し本編を重厚なものにしてくれていれば、、という言い訳が
やっぱり先に立つ。
悪くはないと思うし美点も挙げればキリがないが、自分があまりいい読み方が出来なかった。

でも初期の初期でこの文章力とセンスは……^^;化ける作家も時々いるが、宮部氏は
もう生まれた時から文章家なのだろうか。自分などには絶対表現出来っこない
比喩や人物描写は憧れを通り越して崇め奉りたくなる。