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この島でいちばん高いところ (ねこ3匹)

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近藤史恵著。祥伝社文庫

おなじみの祥伝社の「中編の楽しみ」シリーズ。
夏休みに二泊三日の海水浴旅行を計画した5人の少女達。無人島に渡った彼女達は、
砂浜で心地よく昼寝をしてしまい帰りの船に乗り遅れてしまった。もう一晩島で過ごす事を
余儀なくされた彼女達だが、島には自分たち以外の人間が潜んでいる事に気付く。そして
仲間が一人行方不明になりーーー。


大ファンという程でもないが、近藤氏の描く女性像や作品の文章が持つ雰囲気が妙に
自分の肌にマッチしてついつい色々と手を出してしまう。
年齢を重ねるごとに擦れて行く心、その切なさが自分に心地よいのかそれとも単純な
「わかるわかる」という共感だろうか。
本作は主人公が17歳の少女達という事で興味を持った。今まで自分に年齢が近い女性が
主人公のものばかり読んで来たので、今度は昔の自分に会いたくなったのかも。

ミステリーとしてもサスペンスとしても特筆すべき意外性は皆無で、トリックもない。
正体がわからない、理由がわからないものに追いつめられて行く恐怖、という点でも
リアリティなど探そうとしても見つからない。
実は正直「こりゃ記事はスルーだな」と思っていたほど極めて普通の、ひと夏の事件だった。
しかし、こうして書いているのはラスト、エピローグを読んだ事による。
事件の10年後のひとコマなのだが、それが妙に印象に残ってしまった。
近藤氏が自身の作品に解釈をつけた、と言う感じだろうか。
理屈でなく、文学的という程詩的でもなく、言ってみれば随分と古い感覚のものなのだが
近藤氏はきっとこのラストが書きたかったのだろう。
求めていた切なさは、違う形で得られる事が出来た。