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都市伝説セピア (ねこ4.6匹)

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朱川湊人著。文春文庫。


5編収録のデビュー短編集。本書は130回直木賞候補作。実際に受賞したのは第133回直木賞
『花まんま』。
……などという輝かしい経歴を知らずに読んだのですが、読後もそんな肩書きに流されることなく
ありきたりの褒め言葉から始めたいと思います。
「さすが………!!」
というか、
「好きだ……!!すげえ……!!」。
ホラーというジャンルは統一しているものの、5編それぞれの作風は様々。口語体であったり
主人公の一人称であったり、乱歩世界であったり現代ホラーであったり。

1編目の『アイスマン』を読んだだけでもう震えが来た。なんだこの禍々しさは。
目を背けたくなる程の哀しさと恐怖は。乱歩どころじゃないぞ。あー怖かった、次々……と
2編目の『昨日公園』に突入したらもうだめだ。親友の死、戻る時間。繰り返される救出。
ここまではありがちだが、なんとここからが驚きだ。オカルトな世界観を持続しながら、
人としての極限の忘れてはならない心までを表現して来るのだ。さらに読者を落とす
ダークなオチも忘れていない。
ここまで来たらもうノンストップ、この人のまた違う世界を、違うお話を!と欲望は止まらない。
そんな私にオール讀物推理小説新人賞受賞作である『フクロウ男』が待ち受けてくれていた。
これ、乱歩ですよ?乱歩。都市伝説ですから。あったでしょう、『恐怖王』『黄金仮面』、
楽しかった、わくわくした手間のかかった怪人たち。あれを地でやろうってんですから、
この主人公。現代インターネットでそれをやるんですから。この最後の一行にびりびりである。
あたしゃ元祖よりこっちの方が面白かったよ。

……と、このように残りの2編もこの調子が続くのですが、それはお楽しみということで。
作風、ジャンルが好みだったせいもあるが、ホラーというアンダーグラウンドでも
一人部屋で「ひひひひ……」と楽しむだけでは気がすまない小説というのが時々ある。
しかし、本作は肩書きがある。ゆきあや個人のどんな褒め言葉よりも効果があるだろうし
説得力もあるだろう。今回はだから敢えて記事に「賞」という言葉を前面に出させていただいた。
それを了解した上で読まれても、きっとこの世界に驚かれること請け合い。
ホラーOKな人、読んでね v(^^;)v