すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

展望塔の殺人 (ねこ4.2匹)

イメージ 1

光文社文庫

6編収録の短編集。内、2作が吉敷もの。で、文庫には「吉敷竹史シリーズ7」とあるので
この書庫に入れます。所持してる新装訂の本の画像も拾えないのでそのへんの食い違いは
ご了承下さいましね^^

本書は、不詳ゆきあやがブログと別でやってる掲示板の仲間である「てっちぃさん」より
以前から「早く読め」「まだか」と矢のような催促を受け、さらには事あるごとに彼は
『宝石箱のような短編集』『奇跡のような短編集』、しまいには『超絶技巧短編集』と
この世にあるだけの賛辞を駆使してこれでもかこれでもかと語り^^;お薦めされたもの。

最近、ネット仲間にお薦めされたり影響を受けたものばかり読んでいる気がするが
自主的に「うりゃっ」と選ぶより「当たる」確率が高いのでこれでいいのだ。



『緑色の死』は緑色恐怖症で野菜を食べる事すらも拒絶する男の話。そのうえ虚弱体質で、
なぜこういう体質になったかという謎と、ある密室殺人の謎を解くという贅沢な一品。
そういえば私、島田さんの御手洗、吉敷以外のものって「倫敦ミイラ」を除けば初めてじゃないか?
そういう事で新鮮でした。

『都市の声』は言語障害者の弟を持つある女性に起きた悲劇。女性の行く店、歩く道にある
赤電話からストーカーとおぼしき男からの気味の悪いコールが次々と。なぜ?どうやって?
これだけでも十分面白いのだが、謎の解明よりも恐ろしかったのは閉鎖的な環境に生きる事を
余儀なくされた人間のリアルさと闇。


『発狂する重役』はある歪んだ性癖を持つ重役の男がある女性に惹かれたことから招いた惨劇。
密室から消えた女。死んだはずの人間がなぜ今になって?うおおー、ベスト・オブ・謎!!
真相は個人的に肩すかし系だったけれど、面白いのはそこではなくてその真相に結論づけるまでの
理論だわ。。。オカルトに逃げないのはさすが。それでいてオカルトな雰囲気はあるんだから
文句のつけいる隙がない。だからこそ真相が映えるんでしょう。


『展望塔の殺人』、表題作だけあって個人的に一番良かった。喫茶店のウエイトレスが
突然仕事中に客である初対面の女性を刺殺!しかも、このウエイトレスは普段から人柄の
良さと成績の良さが評判で、非の打ちどころの無い女性だったという。
吉敷さん登場しますけど、影薄いですね。これで初めて吉敷に出会った人は彼が大人気シリーズの
主役だと知ったら目が飛び出るんじゃないですかね。。


この当時の社会問題であった「小学生の自殺」。短編でありながら、ここまで
掘り下げていてそれでも色褪せない。現在でも何も変わっちゃいないんだと思うところも
ありますが、真実をついた台詞を小学生の口から語らせるのが強烈でした。


続く『死聴率』は、まるで森村誠一かと思いました^^;乱歩風の語り口が新鮮。
最後の『D坂の密室殺人』、
タイトルからしてもちろんアレですな。ウチでもちょうど再読して記事にしたとこなんで
イムリーと言えましょう。出だしに思わずニヤリ。。

ストーリーは本家と全然違いますが、時代性やら怪奇性はモロ乱歩。舞台も団子坂だし。
イデアと遊び心、リーダビリティーの高さ、
こりゃ島田さん、本家食ってるよ。
模倣という行為で、作家の持つ文章と面白さのクオリティが再確認されるなんて
今までなかったなあ。


総まとめ。

「超絶技巧短編集」という看板^^;に偽りなし。未読の方は何をおいても読むべし。

個人的な意見を一つ言えば、やたらそれぞれの作品に女性を強姦するシーンが多かったので
嫌悪とまでは行かないけれどいい気もしなかった。
オチをどう好意的に、文学的に解釈するかは物語の人物の「どっち」に焦点をおいて
自分が読んでいるかで変わってくるんじゃないかという作品が多かったと思う。
犯罪行為そのものは男性読者でも奨励しないだろうが、
男の弱い心理と、女性である事の時代的な、立場的な、力的な弱さは対極に過ぎて
やはりこれは男性の描いた作品だな、とは思った。

ミステリーとしても社会派としても秀逸な作品のオンパレードだが、
読者としてどちらの立場かと言えば悲しくも私は後者だ。
故にねこ5匹ほどの絶賛は出来ない。