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町長選挙 (ねこ4匹)

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文藝春秋。伊良部シリーズ第3弾。


パニック障害に襲われカメラのフラッシュにすら怯える人気球団のオーナー。(『オーナー』)
若くしてIT企業の社長、マスコミの寵児が若年性アルツハイマーに罹る。(『アンポンマン』)
人気女優が若さとスタイルを維持するために強迫観念に取り憑かれる。(『カリスマ稼業』)

またしても伊良部が大活躍するこのシリーズ最新作。
挙げた最初の3話は、現実の有名人をモデルとした遊び心が伺える。

自分はそれほどご本人を意識しなければ楽しく読めるお話ばかりではあった。
自分が少し芸能には疎いので(そもそも3話目のモデルがわからなかったので調べた)
そうでない方にはやはり複雑なものもあろう。
実際、自分もさすがに2話目は現実のあの方を連想してしまい、感動しそこねたのだ。
頭の中では「保釈金3億円。3億円。」という状態になってしまい、それが物語上の人物の未来と
重ね合わせてしまった、というのは仕方がない。きっと読者は全員それで苦笑されたかと思う。

もう一つは、やはり今までと違い、患者がわれわれ一般人ではないという事が
彼らの心情や境遇の「面白さ」を損ねてしまったように感じた。
今までは、私達と同じような人間がこんな目に、こんな病気に、、という面で
惹き込まれたが、芸能人、著名人となると、、。「事実は小説より奇なり。実際もこんな
感じなのだろう」という刷り込みが自分にはある。(ご本人が、という意味ではない)


悪かった点を先に書いてしまったが、全体的に面白かったし伊良部はやはり最高だった。
4話目が噂通り無医村へ出向き派閥戦争に巻き込まれるというシチュエーションで
異色だったが、このお話が伊良部ここにありといった趣きだろう、本来。
このシリーズの魅力は、答えのない所にある。
綺麗な言葉で励まさない、人間としての伊良部の生き様から患者は学んで行くのだ。
不完全で、見栄っ張りで、堅物で、嘘つきで、そんな自分の「仕事」と「生き方」を
真っ向から肯定する。

ザコン伊良部のさむいギャグ、実はパンクスだったマユミちゃんの太ももと愛の鉄拳、
この小説は本当にくだらない。さすがに今度こそ伊良部は「あほう」なのかと心配になった。
それでも、やめられない止まらない。
奥田英朗の肩の力を抜き切った、それでもそれぞれ自分の人生は素晴らしいんだという
全力のメッセージが私を惹き付けて放さないのだ。