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あの日、少女たちは赤ん坊を殺した/Every Secret Thing (ねこ5匹)

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ローラ・リップマン著。ハヤカワ文庫。2004年アンソニー賞最優秀長編賞、バリー賞同賞受賞作。

11歳の夏。アリスとロニーの2人の白人の少女は、ある屋敷の前に放置されていた黒人の赤ん坊を
連れ去ってしまう。やがて、遺体で発見された赤ん坊。少女達は殺人、誘拐、窃盗の罪で7年間
少年刑務所に服役する。
そして7年後、18歳になった少女達は釈放され、元の町へ戻って来た。
やがて起きる幼女失踪事件。連れ去られたと見られる幼女は、7年前の事件の赤ちゃんに
酷似していた。。。。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー良かった。

少女達が赤ん坊を連れ去った後、何が起きたのか?
どちらの少女が殺したのか?
現在の失踪事件に2人は本当に絡んでいるのか?

18歳になったアリスとロニー。アリスは90キロまで太り、ロニーは仕事を見つけたものの
精神状態は歪んだまま。2人は弁護士の指導で会う事は許されない。
まったく読んでいて人格につかみ所がない。
どちらが嘘をついているのか、ついていないのか。読む側でも、7年前の事件の首謀者が
読めない。そして、現在の事件が前科者への偏見、冤罪なのかどうかすら、こっちには自信がない。
ミステリなんだからわかってしまえば話にならないのだが、そうでなくて。。。
本当にわからないのだ。
犯人は誰、という次元でなく、何を考えているのかが全く理解できない。

続く、他の登場人物達もそれは同様。
7年前の被害者の母親、アリスの母親、幼女の母親、少女の公選弁護人、記者、刑事。
驚くべきことに、主要人物は全員女性である。
全ての人間が腹に一物ありそうで、本当の事を言ってないという雰囲気が常につきまとっている。

そのそれぞれの心理と事件の真相が淡々と明らかになっていく様は素晴らしかった。
全体的に地味な作品だが、この土地の風潮、問題が浮かび上がって来る。
女性達の叫びが、孤独が、伝わって来る。

理解はし難い。文化が違う。法の制度が違う。人種差別も肌でリアルに
突き刺さって来る問題ではないのは認めざるを得ない。
それでも、子を持つ母親であればこの事件は辛くて読めないだろう。
目をそらすべきではないとも思うが、物語は物語である。
辛くやりきれないお話が苦手な人や、子供を持つ人には本書を薦めようとは思わない。
いずれ自分にも、読み返せなくなる時が来るのだろう。
その時の自分はこの少女達がどんな風に映るのだろうかと想像すれば、
今想像しようとしたその事を後悔した。