ある死刑囚が刑執行を前にして、教誨師にうちあけた犯罪。彼の罪状は強盗殺人だったが、実はもっと
大きな犯罪を過去に犯していたという。彼には股の黒子以外どこも違わない風貌の、双生児の兄が
いたという。(短編)
自分が双子であり、妻がいて、過去に犯した犯罪がある、と聞けばなんとなく今なら
先は読める。言えば過去の罪を恐れるあまり「どんくさい」失敗をしたというオチ。
しかしこの物語の魅力はそこではなく、この淡々と語られるおどろおどろしい雰囲気と、
井戸のシーンで静かにたたみかけるホラー的な恐怖だろう。
悪い事をすれば味噌汁もまともに飲めたもんじゃない。
トリックについては乱歩で「凄い」というものは少ないし、これも小さな破綻はある。
でも短編ならこれぐらいの密度で十分に読むに堪える一つの物語となるので良しとしよう。
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光文社文庫「江戸川乱歩全集」第1巻『屋根裏の散歩者』収録。
創元推理文庫「乱歩傑作選」第11巻『算盤が恋を語る話』収録。
春陽文庫「江戸川乱歩文庫」第5巻『人間椅子』収録。