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銃とチョコレート (ねこ4.5匹)

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講談社ミステリーランド


少年リンツの住む国で富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。現場に残されている
カードに書かれていた『GODIVA』の文字は泥棒の名前として国民に定着した。その怪盗ゴディバ
挑戦する探偵ロイズは子どもたちのヒーローだ。
ある日リンツは、父の形見の聖書の中から古びた手書きの地図を見つける。その後、新聞記者
見習いマルコリーニから、「『GODIVA』カードの裏には風車小屋の絵がえがかれている。」という
極秘情報を教えてもらったリンツは、自分が持っている地図が怪盗ゴディバ事件の鍵をにぎる
ものだと確信する。地図の裏にも風車小屋が描かれていたのだ。リンツは「怪盗の情報に懸賞金!」
を出すという探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが……。(裏表紙引用)


あちこちで、乙一ファンも、そうでない方でも絶賛以外の言葉を聞かない本書。
かくいう私も相当期待して読んだが、ああ、これは納得。そりゃ褒め言葉しか出ないだろうという
出色の出来だ。

体裁はミステリというより冒険小説。登場人物の名前がすべて有名チョコレートメーカーのもので
統一されている楽しさといい、美味しそうな茶色の装丁といい、細かい芸が随所に効いている。
人種差別、人殺し、貧乏、いじめ。大人でも十分読むに堪えるテーマがあり、子供にも
あるべき「人としての在り方」を伝えるのにこの作品はおあつらえ向きだろう。

過去のミステリーランドで、「子供を甘く見てはいけない」という主旨の意見もちらほら書いた。
本書は、悪人は悪人、正義は正義の土俵にいない。
子供向けとあれば人間関係の構造はシンプルに「善と悪」であるという刷り込み。実際に、
甘く見ていたのは自分の方だったかもしれない。
自分で判断し、他人に流されない心と、絶対に失ってはいけない勇気と優しさ。
杓子定規な正義こそ嘘だ。日々の煩悩と、かけがえのない冒険から少年はたくさんの
大事なものを学ぶ。

リンツが得たたくさんの宝と、その楽しいアイデアに素晴らしい未来があることを
読者は知っている。遠くない将来、もう誰も君を移民の子だなんて笑う人はいなくなるだろう。