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クライマーズ・ハイ (ねこ4.7匹)

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横山秀夫著。文春文庫。

1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、
悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。
組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とはーー。(裏表紙引用)


日航ジャンボ機墜落事故という現実にあった大惨事を、犠牲者側ではなく、現場に体当たり
していた記者側から描く。自身が当時の新聞記者だったという横山氏の体験を恐らく
元にし、臨場感溢れる感動的なドラマが完成した。

しかし、あくまで本書は現実を元にした「フィクション小説」である。
ノンフィクションであればもちろん臨場感も求められるべきで、その場合ここまで私は
評価しなかったと思う。熱い人間ドラマとして私は読んだ。
横山氏の、リアリティ溢れる生きた人間を描く筆致などは氏の作品を記事にするたびに
さんざん書いて来たので今回は端折る。後ろ暗かったり、愚かだったり、半人前の男達が
泣く、殴る、走る。最後はさすがに今時やりすぎかと思うほどの主人公の持ち上げられぶりだが、
気になったのはそこぐらいか。

人生は一度とはよく聞かれる台詞だが、横山氏は一瞬一瞬で生き様が決まると書いた。
毎日がゼロからのスタートだとか、本書に感動し考えさせられたなどという立派な感想を
書くつもりはない。
この壮大な、一人の男の人生の断面を描き切ったこの物語が、本当に私は面白かった。
あの言葉が、この物語の全てだったと思う。