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図書館の死体/Do Unto Others (ねこ3.8匹)

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ジェフ・アボット著。ハヤカワ文庫。アガサ賞・マカウ゛ィティ賞最優秀新人賞受賞。

図書館シリーズ(勝手に命名)第1弾。
田舎町で図書館の館長を務めるジョーダン・ポティートは、彼の勤める図書館で
バプテスト教会の信者、ベータ・ハーチャーと口論になる。そして翌日、その図書館で
彼はベータの他殺体を発見。凶器と見られるバットには彼の指紋しかなく、嫌疑は彼にかかった。
ベータは、ジョーダンや彼の母親の名前や町の図書館員らの名前と、聖書からの引用を記した
謎のメモを隠し持っていたがーー。ジョーダンは身の潔白を証明するため、犯人捜しを始める。


噂には聞いていたが相当に面白かった。
出だしのインパクトと、コミカルで読みやすい文章、展開の軽妙さでのっけから
夢中になれる。おおお、大好きだ!ともう半分も読まないうちから私はほくほくご満悦である。

社会派サスペンスやハードボイルドのようなスリルはまるでないし、
本格推理のような(実は最初は「雰囲気のないセント・メアリ・ミード」だと思った)
緊張感と探偵役による興奮値高い推理、という作風でもない。
かと言って捜査主流のサスペンスかと言うとまるで違う。
読む人によっては退屈でつかみどころのない箇所もあるかも。

小さな隔離された人間関係の妙と、登場人物達の深層心理。
一見地味で素朴、平凡な町の住人達が、いかに一人一人悩み、傷つき、大きなものを
抱えて生きているか。そこで道を踏み外してしまった人々がいかに事件にかかわっているか。
ここがひとつの要所。
もう一つは、家族愛。ベタすぎるが、ちょっと驚いてしまった。シリーズ物の第1弾で、
こういう位置の人物にこういう運命を課すのかと。きちんと登場人物がシリーズを通して
生きて行く、そんな予感がする。これは続編も読まずにいられない。

シリーズ主人公であるジョーダン始め、いわゆる「キャラの立った」人物は出て来ない。
ずばり、どこにでもいそうなちょっと不運な平凡な男性である。
だけど、それが生きた。
読者の手の届く生身の人間像に感動した。
個性なんていらない、とても魅力的だった。