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空中ブランコ (ねこ4.6匹)

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奥田英朗著。文藝春秋。第131回直木賞受賞作。


伊良部シリーズ第2弾。
今回も○ブでマザ○ンで注射大好きの破天荒なとんでも精神科医、伊良部がやってくれます。
サーカス団のエースが人間不信になった時……!
誰もが避けて恐れるヤクザが先端恐怖症に取り憑かれた時……!!
大学講師、付属病院勤務の青年が養父のヅラを取りたい破壊衝動に苦しんだ時……!!!(笑)
野球界のスターがノー・コントロール病にかかってしまった時……!!!!
恋愛小説のベストセラー女流作家が「前にこれを書いた気がする」強迫症に苦しんだ時……!!!!!
彼ら5人が伊良部総合病院の精神科を訪れた事から、悪夢は始まる(笑)
患者はどっちだ!?こいつはやっぱり名医なのか!?


評判通り、期待通り、いや期待以上の伊良部の活躍だった。感動のあまり喉元が苦しくなったのも
1度ではない。傍から私の読書風景を見ている人がいたとしたら、さぞかし気味が悪かったろう。
さっきまで「うひゃひゃひゃひゃ」と笑っていたのが次の瞬間にはもう目を涙でいっぱいにして
いるのだから。注、本当に声は立てていません。実際は半笑いくらいです、せいぜい。
帯の宣伝じゃないけど、本当になんなんだこれ。普通、笑えるか泣けるかどっちかだろう。

実は、登場人物達は「イン・ザ・プール」の方が面白かった率が高いのだが
今回は、症状は深刻ながらも人格的に元々ひどい問題のある人間はあまり出て来なかった気がする。
実際、病気そのものはほとんどの人に身に覚えはないだろうが、彼らの生き様や、心理、
保守的であったり、無自覚であったり、驕りがあったり。そういう点は読者に身近だった
ように思う。その意味では、前作よりリアルさは増した。私は正直物足りなかったが。
伊良部の暴走ぶりには拍車がかかっていたので良しとする。

お気に入りは、断然表題作「空中ブランコ」。こんな傑作を1発目に持って来てくれてありがとう。
どうかなーと本屋で立ち読みした人が、これを読んで颯爽とレジに持って行く姿が目に浮かんで
しまう。泣きながらだろうか。笑いながらだろうか。想像しただけで楽しくなる。
次点は「ホットコーナー」。これも感動必至だろう。このラストシーンはどうだ。
あまりの眩しさ、滑稽さに放心してしまった。

前作との大きな違いは、患者が皆「完治」していない点か。後は努力次第、あなたも
伊良部のように肩の力を抜いて生きて行けよ、というエールは届いたはず。物語の
続きを想像させてくれるようなこういう小説はとても好きだ。


お楽しみ真っ只中の奥田英朗フェア(個人的に開催中)は絶好調である。告白すると、
もう上半期ベスト3は「最悪」「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」と奥田氏が独占して
しまっている。浮かれすぎか、自分。
早速「町長選挙」を買いに行くとしよう。
そしてまた、あのとんでもない、不器用だけど生命力あふれるダイビングを見せてよね、伊良部さん。