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メビウス・レター (ねこ3.2匹)

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北森鴻著。講談社文庫。


美術部の男子高校生が、校内で謎の焼身自殺。数年後、作家・阿坂龍一郎宛に
事件について詳しく追跡した手紙が次々と届く。謎の差出人は、なぜ阿坂の元に
手紙を送りつけて来るのか。
そして、阿坂は近所のファンだというストーカーまがいの主婦につきまとわれ、
担当編集者は何者かに殺害される。



この方の作品、私には読みやすいようで実はそうでもない。
人物の個性はそれぞれはっきりしているのに、どの人物にも「芯」を感じない。
というか、仕掛けと言われればそれまでですが嘘っぽく感じてしまう。
結果、騙されてもびっくりしにくいのです。。
終盤で主要人物達の人格が反転してしまうのも同様。
特に体罰教師。彼の演説も別に目から鱗は落ちなかった。
悪いわけではないけれど、個性的な人物を出し過ぎてお互いを殺し合ってしまったような
印象を受けたのです。探偵さんとかストーカーとか。
ああ、凄くいいのに!そんな風に使っちゃうの?

事件そのものは普通と言えば普通なので、こんなにトリックに凝るよりも
そちらを極めてくれていた方が「傑作」という謳い文句に近づいた気がしましたね。


とは申せ、つまらない作品かと言えば絶対そんなことはない。
素直に言えば、とても面白かった。
トリックもかつかつ系のオンパレードだったけれど、実際2か所で非常に驚いたし。
終盤でない所で一度驚けるというのは、まだまだこの先驚愕の真相が待ち受けていますよ、と
予告してくれているようなもので、楽しいものです。
なんだかんだ言いつつ、こういう仕掛け満載のものは好きでございます。

ただ、この作品が一人の編集者によって一度出版中止になったというその理由が
「トリッキーすぎる」から、というのは事実どうなんだろうなとは思った次第。