すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

夏期限定トロピカルパフェ事件 (ねこ4匹)

イメージ 1

米澤穂信著。創元推理文庫

待望のシリーズ第2弾。


小鳩くんと小山内さん。高校生の二人は恋人同士ではなく、「依存関係にないが
互恵関係にある」変な関係。お互いに「小市民」たらんとし、小市民であるために
プラスな関係を続けている。
夏休みに突入し、小山内さんは「小山内スイーツ・セレクション・夏」ツアーの
同伴を小鳩くんに要求。甘いものは好きじゃないんだけどと言いつつも、
付き合うことを了承。胡散臭げなものを感じながらも。。
そして小鳩くんはやっぱり色々な日常の謎に遭遇するのでした。


私の現在イチ押しのこのシリーズ。
このスイーツ&トロピカルなまぶしい表紙に騙されてはいけない。確かに
ライトノベルであり、青春小説であることは否定しないが、そんじょそこらの
惹かれ合いながらも素直になれないふ・た・り♪が意地を張りながらも
事件を通じて距離を近づけて行くのでした、なんて甘っちょろい作品かと思ったら
大間違いであります。

主人公は限りなく淡白で(フリ?)掲げるのは「小市民の旗」と
「諦観、儀礼的無関心」。探偵なんて小市民のやることじゃないのだと嘯いて
全ての行動のモチベーションは「小市民の基本パターン」であるかが鍵。
しかし所詮は世間知らずの高校生、無理してんじゃないよと
肩でも叩いてやりたくなるし君をそうさせた悩みってもんを話してごらん、と
アイスでも奢ってやりたくなる。

甘ったるいライトな日常の謎と、淡白なキャラに好感を抱きつつも
そうそう、我が身に降りかかってないのよ所詮蚊帳の外なのよと
実はそれがそのまま読んでいる自分に跳ね返って来たのはどのページからだろうか。
このシリーズのイメージにはそぐわないような「現実」の事件。
もう小鳩くんは気付いてしまった。
彼には現実の重さ、大人の狡さ、柵をまだ知って欲しくなかったのに。


結局、それでも小鳩くんはきっと歩き出してしまう。
うつむいてる場合じゃない。彼はあるものを失う代わりにこのままではいられない
「何か」を得てしまったのだから。

4部作なのかどうかは私にはわかりません。この先出るであろう「秋」「冬」で
どういった展開を見せ、この二人がどんな成長を見せるか。
本作では私を置き去りにしてしまった小鳩くんだけれど、追いかける事なら出来る。
敢えてまた「小市民の星」を極めるもよし、探偵の才能を生かすもよし、
小山内さんと歩き出すもよし。
答えが出ないなら、また2周目の「春」で戻って来ればいいと思う。


全てが作家の確信犯的なものだとしたら、かなり高度なテクニックと言わざるを得ません。
このシリーズ、万人受けするとは思えませんが、個人的には久々のヒット。
2周目の「春」とか言う前に、今の気持ちはまずこれ。
「次作まだ~~~?^^;」