氷川透著。講談社ノベルス。
氷川透シリーズ第3弾。
学生時代に傾倒していた親友、生田(精神科医師)に招かれ、
厚生病院に赴いた氷川透。その病院内の面接室で、身元不明となった
焼死体が発見される。死体は生田と目されたが、発見現場は
氷川が招かれた第四面接室ではなく、隣の第三面接室であった。
生田であるという論証のない中、氷川は事件を解明できるかーー。
科学捜査の発達した現代、DNA鑑定と携帯電話の履歴でほとんど
犯人は確定できると聞きました。そうなれば論証と理屈と可能性で
論理的に犯人とトリックを暴いていくスタイルの本格推理小説には
厳しい状況なわけで。
本作ではDNA鑑定すら身元のわからない今確証にはならないと明言し、
動機から推測する方策も排除し、真っ正面から「理論」での真相看破に
挑んでいます。
まあ成功していると言えるでしょう。
すべての考えうる可能性を順番に否定して行く氷川の論理はとても清々しい。
「一般的にはそうであるが、こういう考え方をする人間もいないわけではない」
それを言ってはどの仮説も排除に持って行く事は不可能かと思いきや、
最後には「唯一の解答」へと導いて行く。
惜しい点を挙げれば、やっぱりどうしても「論理的に解決した」という帰結でしかない。
自ら首を絞めてしまったのかも。
物的証拠は添え物でしかなく、つまりは自白に頼るしかなかったのは
やはり被害者が特定できず、関係者が氷川の友人であるという設定ゆえの縛りなのでしょうか。
この蘊蓄全開のカタいまわりくどい文体、人間らしさもリアリティもないのに
心理を緻密に描きたがり、わかりにくい冗談をばらまいて読者を脱力させ、
自分たちは作家の創作した登場人物だとシュールに視点デビューなどと言わせてしまう。
そんな氷川さんの文章は大好きだ。
そんな氷川さんの文章が「苦手だ」「読みにくい」「消えろ」(そこまで言ってない)と
感じる読者も多々いそうですが。
何が言いたいって、蛇足なのですが。
この才能とセンスを台無しにしてしまいかねないような、
アイタタな女性キャラ(某Y刑事)を一時の迷いで出すのはやめて欲しかったな。と。。。