辻村深月著。講談社ノベルス。
目次が面白いのでご紹介。第一章「どこでもドア」第二章「カワイソメダル」
第三章「もしもボックス」第四章「いやなことヒューズ」第五章「先取り約束機」……。もろもろ。
藤子先生を敬愛するカメラマンの父を持つ、高校生の理帆子。
父が失踪してから、病気の母と二人で過ごして来た。
藤子不二雄氏を敬愛し、読書を趣味とし、自身を「頭がいい」と自負しながら
その内面を押し隠し、クラスの人気者として無難に毎日を消化する日々。
そんな彼女の前に、ある日別所あきらと名乗る青年が現れた。写真のモデルになって
くれないかと懇願する彼を最初は迷惑がったが、別所の魅力的な人柄に惹かれて行く理帆子。
しかし、元彼である若尾と再会したことによって事態は思わぬ方向へーーー。
りあむさんのブログにて発見し、自他共に認めるドラえもんファンの自分としては
読まずにいられようかと、実は軽い動機で手を出しました。
物語の技巧としては、特筆すべき長所はなく、これといって独特の世界観が存在する
わけでもない。ストーリーの土台はあまりにも使い回しに過ぎて斬新さにも欠ける。
そのありふれたプロットが、主人公の内面を徹底的に描いたことと、「ドラえもん」
というあまりにも有名なSF漫画を融合させ、オリジナリティへと転化したことによって
こんなにも生き生きとした不思議ストーリーに変身してしまった。
他人を卑下し、評価することによって自分を正当化する。実際「頭が悪い」とランク
付けをしている友人達と五十歩百歩、理帆子は私にはそう映った。(若尾はともかく)
いつ自分の幼稚さに気付くのだろうと意地悪な楽しみ方をしながら、
気がつけば「泣かせの定番」とも言えるクライマックスと、驚きの真相のダブル攻撃に
惹き込まれ、いつの間にか理帆子は「自分」になっていた。
やられた。
万人受けはしないだろうと思う。大声で、「オススメ!」と推す気にはならない。
それでも私は大好きだし、この小説が好きだという人もきっと私は好きになる。