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鎮火報 (ねこ3匹)

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日明恩著。講談社ノベルス


メフィスト賞作家の2作目長編。

二十歳の新米消防士・雄大は、同じく消防士として殉職した父に対する反発心から
同じ道を進む。しかし、消防馬鹿だった父とは違う、熱い消防士なんて真っ平だと
脱力し職務をただこなしていた。
そんな雄大のもとに飛び込んだ外国人アパート連続放火事件。ふとした現場での
疑問から、原因解明に向け奔走する雄大だがーーーー。


帯の熱い文句やあらすじなどから、もう読む前からテーマやストーリーが
読めてしまうような青春成長物語。「狙い」がはなからわかっているものを
読んで、感動することは自分はめっったにないのでちょっと腰がひけつつ。。
前作が前作だったので、過剰な期待をしちゃだめだよ自分、というフランクな姿勢で読むと
案外はまるかもしれないし。

……面白い。
もちろんエピソードが全てべたべた。まだこんな切り口が通用するのか、と
正直思いましたが、今風で読み易い文章でそこは相殺されてるかな?と前向きに解釈。
この主人公は、いかにもありがちな、内心に熱い情熱と正義感を秘めながらも
意地がそれを認めさせないというほほえましく憎めない設定。ものすごいワルが出て来たら
どうしようと危惧してましたが、「なんだ、いいヤツなのに素直になれないんじゃん」。
それが読者に伝わらないと、成長物語もへったくれもない。安心いたしました。

ただ、ストーリーの核である放火事件と、成長物語が独立してしまっている感が。
駐車場の自殺未遂騒ぎが直接ストーリーと関連がなかったのが残念。
放火事件そのものは意外性に乏しかったので、それなら成長物語で一発どかんと
決めてくれよ~、という願いもむなしくべたべたな小粒事件(失礼!^^;)で
想像通りに終わってしまった。あらら。
正直、最初の人物像と、事件を通じて成長したとされるラストと、変化がないんですねー。
元からこんな青年だったと思うんですけど。エピローグを読めばなおさらですね。
これなら、ものすごい熱血消防士に生まれ変わるぐらいの方が良かった気がします。
(それだと、人格まで変わってしまうか^^;)



いいところまでは行っているが、傑作とは言い切れない。前回と全く同じ印象です。
元々、これぐらいの力量はこの作家は持っていたと感じますね。
とにかく、器用。つぼをきっちり押さえ、どう描けば面白くなるかがわかっているような。

こういう作家は常に新しい題材を扱えば、駄作が出て来ない気がします。
「警官シリーズ」「消防士シリーズ」それぞれ続編を追う気はありませんが、
新シリーズならまた読んでみようかな。