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サーカスから来た執達吏  (ねこ4.2匹)

夕木春央著。講談社文庫。

大正14年。借金に苦しむ樺谷子爵家に意外な取立て人がやってきた。ユリ子と名乗るその少女は「財宝探し」による返済と、子爵の三女・鞠子を担保として預かることを提案する。財宝の在り処は?そして、14年前の未解決事件の真相とは?丹念に綾なされたミステリーと冒険の世界を、二人の少女が駆ける。(裏表紙引用)
 
夕木さん4冊目。
「方舟」「十戒」が話題の旬の作家さんだが、大正を舞台にした「絞首商會」、そして本書も話題本に負けずとも劣らない傑作ぞろい。今のところ明確なハズレや「ちょっと落ちる」と感じる作品に出会っていない。で、どちらかというと自分は万人向けの二文字モノより大正シリーズの方が本格ミステリー度が高くて好みだなあ。前作とは全く別のお話だけど。
 
まず、サーカスから逃げ出してきたという謎めいた少女が探偵役というのがいい。年齢不詳(自称18歳だが描写から推測するにもっと下かなと)で、服装もとんちんかんで、文字も読めないけれど計算がめっちゃ早くて、なにより頭がいい。多分、漫画化したらかなり「ロリータ」な風貌で描かれる気がする。語り手の鞠子は対照的に華族のお嬢さんで、世間知らず。だけど家風やしきたりを守り家の犠牲になる人生に疑問を感じていて、こっそり小説家を夢見ている。どちらもタイプは違うが聡明で、理想的だ。
 
暗号文に関してはもう解けるわけがないのでそのレベルは分からないが、財宝消失、殺人、死体遺棄、監禁など謎解き要素はいっぱい。財宝に目がくらんだ華族たちが隠していた秘密や醜い争いなどもみどころたくさんで、ちょっとルパンみたいな冒険活劇の要素もあるのかな?アクションシーンもワクワクさせられた。大人たちを前に堂々と推理を披露するユリ子のかっこよさ。鞠子の人としての成長も泣けるし、最後までミステリアスを貫くユリ子の引き際もいい。文句の付け所なし。