すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

琥珀の夏  (ねこ4匹)

辻村深月著。文春文庫。

かつて、カルトだと批判を浴びた<ミライの学校>の敷地跡から、 少女の白骨遺体が見つかった。 ニュースを知った弁護士の法子は、無騒ぎを覚える。 埋められていたのは、ミカちゃんではないかーー。 小学生時代に参加した<ミライの学校>の夏合宿で出会ったふたり。 法子が最後に参加した夏、ミカは合宿に姿を見せなかった。 30年前の記憶の扉が開くとき、幼い日の友情と罪があふれ出す。(紹介文引用)
 
辻村さんの文庫新刊。なかなか分厚いので旅行に持っていき機内やホテルでほぼ読んだ。ずっと電子書籍読んでいると飽きるので、荷物になっても紙の本は必須。と、そんなことはどうでもよくて。
 
内容は、宗教団体ではないけれどカルト団体と世間に認識されている教育機関、<ミライの学校>をテーマにしたお話。教育機関と言っても教師のほとんどは学校に預けられている子どもたちの父、母(教員免許を持っていない普通の人)だし認定もされていないので、子どもたちはミライの学校とちゃんとした<麓の学校>の掛け持ちをしている状態。なんだそりゃ、って感じ。宗教団体ではないので教祖もいないしお祈りとかもないけれど、<泉の水>とかいうものをありがたがり、殺菌処理を施さず販売したりしている。おいおいおい。当然に黴菌が検出され社会問題となり、学校内の広場からは白骨化した子どもの遺体が発見。世間は騒然となるという。
 
主人公となるのは弁護士の法子。30年前、夏合宿と称するミライの学校の体験学習に3年間参加していた過去がある。学校の遺体はかつて友だちだったミカではないか。そんな疑いを持っていた折、懐かしい人物が訪れ法子にミカの弁護をしてもらえないかと依頼される、という流れ。
 
半分は、<ノリコ>視点の子ども時代。ミライの学校での濃密な1週間が、子どもらしいリアルな心理描写と共に描かれる。友だちを作るのに必死だけど嫌われないために必死だけど意地悪な子に言い返せないもどかしさ。自信のなさ=友だちの数、というこの年齢の子どもならではの価値観と息苦しさが見事に描かれていたと思う。40歳共働きの子持ち女性の生きづらさもそれは同様で、私なんかは「なんでそんなに根つめちゃうかなあ」とか思っちゃうんだけど。40歳から見た子ども時代、憧れていた友だちの現在、どちらの視点も独特かつあるあるな感じで、同性で同世代の自分と相通じるところも多々あるなあとうなずきながら、でもちょっと後ろめたい気持ちにもなりながら読んだ。初潮が来てしまったノリコの動揺や先生たちのロッカーから出てきたいやらしいもののくだりなんかは「うわあ、もうやめて」って思うぐらい。
 
子どもが大人に対して「憧れ」「正しさ」だけを持っていて、あれ、なんかおかしいぞ?と気づくまでの成長過程っていうのかな。どちらの立場も分かるから共感しやすい物語だった。ストーリーとしては穴もあるし暗いので好みは分かれるかな。長いしね。宗教二世の苦悩話としても読めるかも。