すべてが猫になる

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小説家と夜の境界  (ねこ3.8匹)

山白朝子著。角川書店

幸福な作家など存在しない――山白朝子による業界密告小説。 私の職業は小説家である。ベストセラーとは無縁だが、一応、生活はできている。そして出版業界に長年関わっていると、様々な小説家に出会う。そして彼らは、奇人変人であることが多く、またトラブルに巻き込まれる者も多い。そして私は幸福な作家というものにも出会ったことがない──。 そんな「私」が告発する、世にも不思議な小説家の世界。(紹介文引用)
 
山白朝子名義の新刊は、小説家をテーマにした短編集。小説家をテーマにした小説って多い気がするけど、小説家なら一度は挑戦したいテーマなのかしら。結構小説家が主人公のものは好物なので楽しく読めた。
 
「墓場の小説家」
学園ミステリで人気を博したO氏は、いつしか自分が体験したことしか書けなくなった。。高校生をリアルに描くために高校のそばに引っ越すって凄いな。。恋愛も、小説のネタのためにここまでやるかね。
 
「小説家、逃げた」
人気小説家のYさんは速筆だった。左手でゲームを、右手で小説を執筆できる特技があるのだ。しかしそれは彼の両親が強制的にやらせたもので。。毒親えぐい。オチにほっこり。
 
「キ」
高校生の時に猟奇ホラーでデビューした小説家は、その作品からは想像もつかないような爽やかな好青年だった。彼のファンタジー作品から霊障が起きたと怪奇小説家のもとに連絡がある。。監禁し命じたものを書かせる、という設定は「小説家、逃げた」と少し被るかな。まあ、本(特に殺人モノやホラー)を読まない人種には彼はこう映る、というのは分からないでもないけど。
 
「小説の怪人」(※ちょっとネタバレ)
ベストセラー作家X氏の新作に盗作の疑いがあった。ネタ元となったAさんはその後失踪し。。実際にこういう施設?システム?があったら面白いなとは思う。参加してみたいかも。仕事の内容というより、福利厚生や職場環境が良すぎるので。。
 
「脳内アクター」
R先生はスターシステムを活用し成功している唯一の小説家だった。やがて彼の「劇団員」たちが先生の脳内で動き始める。。やっぱりキャラクターというのは作者の分身なのだなあと思えるオチ。キイはちょっと可哀想だね。
 
「ある編集者の偏執的な恋」
純文学作家のD先生のところについた新人編集者のUさんは変わり者で、自分のアイデアを小説にしてくれとやたらしつこいが。。実際にこういうファンがいそうでゾっとする。オチはあの人が一枚上手だったということで。
 
「精神感応小説家」
パーティーのあと睡眠薬を盛られ事故に遭い、身体を動かすことも話すこともできなくなったJ先生。外国人労働者のN君の力を借りて意思疎通をし、小説を出版することにしたが。。ちょっとミステリ要素もありホラーでもあり。酷い扱いを受けているN君が悪いことにならなくて良かった。
 
以上。
どれも読み応えがあって面白かった。小説家にも色々あるなと。本人が奇人の場合と周りの人々がヘンな場合とみんなおかしい場合と。ネタには尽きない世界なんだろうな。