すべてが猫になる

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最後の祈り  (ねこ3.7匹)

薬丸岳著。角川書店

東京に住む保阪宗佑は、娘を暴漢に殺された。妊娠中だった娘を含む四人を惨殺し、死刑判決に「サンキュー」と高笑いした犯人。牧師である宗佑は、受刑者の精神的救済をする教誨師として犯人と対面できないかと模索する。今までは人を救うために祈ってきたのに、犯人を地獄へ突き落としたい。煩悶する宗佑と、罪の意識のかけらもない犯人。死刑執行の日が迫るなか、二人の対話が始まる。動機なき殺人の闇に迫る、重厚な人間ドラマの書き手・薬丸岳の新たな到達点。(紹介文引用)
 
娘を残忍な方法で殺された牧師が復讐のためにその男の教誨を引き受けるというお話。
そもそもその設定自体有り得ないのだが、まるで反省せず被害者を茶化す言動を繰り返す男に生きる希望を与え、絶望の中死刑を執行させられるのかという挑戦がどういう帰結を見せるのか、それに期待して読み進めた。
 
死刑囚といえど1人の人間。刑務官や教誨師によっては情も移るだろうしおよそ極悪人とは思えないようないい面を見せる者もいるだろう。中には心から罪を悔い、死刑が妥当かどうか考えさせられる者もいるはずだ。関係性を作ってきた死刑囚が、ある朝突然執行を命じられ自らの手でそれを手伝い、息絶えるその場に居合わせる――想像を絶する苦しみだろうと理解できる。刑務官や教誨師のその苦悩がとてもリアルで引き込まれた。また、教誨師である保坂にも人格を疑うような過去がある。実際の牧師がどうかは分からないが、この本に出てくる人々のように悩みや挫折、苦しみを経験している者の方が他人への共感力や説得力は高いのかもしれない。
 
被害者は復讐など望んでいないはずだ、という安易で想像のつきやすい解答に行き着かなかったのは評価できる。