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罪の境界  (ねこ3.8匹)

薬丸岳著。幻冬舎

無差別通り魔事件の加害者と被害者。 決して交わるはずのなかった人生が交錯した時、慟哭の真実が明らかになる感動長編ミステリー。 「約束は守った……伝えてほしい……」 それが、無差別通り魔事件の被害者となった飯山晃弘の最期の言葉だった。 自らも重症を負った明香里だったが、身代わりとなって死んでしまった飯山の言葉を伝えるために、彼の人生を辿り始める。この言葉は誰に向けたものだったのか、約束とは何なのか。(紹介文引用)
 
薬丸さんの長編ミステリー。今作は加害者側、被害者側両面から事件を描いた作品ということでなかなかの力作に仕上がっている。
 
渋谷のスクランブル交差点で起きた無差別殺傷事件。犯人は27歳の若者で、動機は無期懲役になって一生刑務所に入りたいという許しがたいものだった。被害者となり一命を取り留めた明香里は、自分の身代わりに死んでしまった男性の最期の言葉を伝えるために動き出す。
 
ネグレストや被害者感情の掘り下げ、踏み込みすぎる雑誌取材などリアルに見過ごせない問題を扱っていて、最後まで読ませる作品だった。薬丸作品の特徴の1つとして弱者(氏の場合は女性)感情が過剰かな、と思わせる(被害者が被害者過ぎるというか。。)表現もあるにはあるがまあここを気にしているのは自分だけのようなのでこれらか読まれる人はお気になさらず。被害に遭った当人しか分からないような苦しみ、葛藤が細かく描かれ、明香里を取り巻く人々の苦悩や愛情も感じ取れた。ただ、「人を殺すか殺さないかが人間かどうかの境界」というある人物の言葉には首を傾げた。子どもにタバコの火を押し付けるような母親も私は人間とは思わないが。。加害者側の生い立ちには同情するが、被害者と対等に「考えさせられる」はずもない。本作では完全に加害者の負けだろう。
 
などなど。色々登場人物に対して思うことがあり、先が気になるあっというまのスピード感。かなりの良作だと思う。
 
以下ネタバレ↓
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
残念だったのが最終ページ。子どもに「晃弘」とつけるのはナシだろう。。。整形手術して傷を治す、忘れた方がいいこともある、と決心した途端コレは。。子ども本人だって、ずっと晃弘の話されながら育つのプレッシャーだろうし。。そもそも、いくら改心したとはいえ縁を切られるほどの悪行を行ってきた人間でしょ。そういう要素のある人間の名前を知った上でつける心理が分からない。。結構夢中で引き込まれて読んでいたのが、この結末ですっかり冷めてしまった。。ここがなかったら4点以上でした。