すべてが猫になる

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逆ソクラテス  (ねこ3.8匹)

伊坂幸太郎著。集英社文庫

「敵は、先入観だよ」学力も運動もそこそこの小学6年生の僕は、転校生の安斎から、突然ある作戦を持ちかけられる。カンニングから始まったその計画は、クラスメイトや担任の先生を巻き込んで、予想外の結末を迎える。はたして逆転劇なるか!? 表題作ほか、「スロウではない」「非オプティマス」など、世界をひっくり返す無上の全5編を収録。最高の読後感を約束する、第33回柴田錬三郎賞受賞作。(裏表紙引用)
 
伊坂さんの文庫新刊。デビュー20周年作品だそう。5編を収録した短篇集で、どれも小学生ぐらいの子どもを主人公にしている。「平凡な人間でも力を発揮することがある」がテーマかな。
 
担任教師に「たいしたことない生徒」だという先入観を持たれているクラスメイトのために、子どもたちがカンニングをしたり絵画を美術館から盗もうとしたり奮闘する話。「僕はそうは思わない」という言葉の持つ破壊力が印象的。いいね、子どもの友情。
 
「スロウではない」
ゴッドファーザー」遊びをする2人が微笑ましい。小学生の頃、「足が速い」ってかなりのアドバンテージだった気がする。女子でも。足が速いとか頭がいいとか、そういうことで連携を保っていたあのころ。だからそうでないふりをする、という気持ちはなんとなく分かるな。いじめ、ダメ、絶対。
 
「非オプティマス」
オプティマスプライムとは、私も大好きな映画シリーズ「トランスフォーマー」に出てくる人気キャラクターである。彼がそう言うとたいていうまくいかない、に笑ってしまった。「親が金持ち」で威張ってる子いたよねえ。。無気力に見えた担任教師が授業参観で語った価値観には少しピンときた。現実で「昔見下していた人が大人になって強くなっていたり自分の取引先の偉い人になっていたり」なんてことは滅多にないと思うけども、偉くなっても威張らない人が最後に勝つというのは世の摂理だと思う。でも、人によって態度を変えないがいい意味で使われるのはこの物語の結末のようなことではないような。人によって態度を変える人だよね、これは。大人の世界は甘くないよということを教えたのかな。
 
「アンスポーツマンライク」
バスケに「アンスポーツマンライクファウル」という反則があるのを知らなかった。ポートボールならやってたんだけどな。(サッカーならなぜ袖引っ張ったりしてもいいんだ?という野球サッカー音痴人間の疑問に誰か答えて~)悪人や犯罪者はほぼ必ず社会に出てくるので、こういうことも起こる。罪を犯した者が絶対に悪だし自業自得なんだけども、それで巻き込まれる無辜の民がいるわけだから難しいよね。この作品が1番好きかな。
 
「逆ワシントン」
友人の新しい父親が、友人を虐待しているかもしれない…と考え、ドローンまで使って彼を助けようとする子どもたち偉い。「正直に言う」が必ずいい結果を招くとは限らないけれど、真面目な人間が1番という母親の言葉にグっときた。
 
 
以上。
どの作品にも伊坂さんらしい日常の基本ともいうべき問題提起が内包されていてなかなかの良作。
連作だけど、どの作品でも人物や出来事が強く繋がっているというわけでもないかも。ちょこちょこ「あ、これあの人かな」っていうのはあるけどね。周りの評価や偏見、先入観で人はいかに簡単に自分の感想を変えるか、というのは自分も普段から気をつけたいと思っていることなので興味深かった。伊坂さんのインタビューつきでお得。コロナ禍に出版しなければいけなかった伊坂さんの苦悩がうかがえる。