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本陣殺人事件  (ねこ4匹)

 

江戸時代からの宿場本陣の旧家、一柳家。その婚礼の夜に響き渡った、ただならぬ人の悲鳴と琴の音。離れ座敷では新郎新婦が血まみれになって、惨殺されていた。枕元には、家宝の名琴と三本指の血痕のついた金屏風が残され、一面に降り積もった雪は、離れ座敷を完全な密室にしていた……。アメリカから帰国した金田一耕助の、初登場の作品となる表題作ほか、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」二編を収録。(裏表紙引用)
 
新装版で再読(いきなりの書庫更新)。
有名すぎる「本陣殺人事件」と「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」、3編収録の中編集。一作ずつの感想を(ほぼ初読感覚。。)。
 
「本陣殺人事件」
金田一耕助が関わった、岡山で発生した事件の一つ。資産家一柳家の主人と女教師の婚礼の夜に起きた、凄惨な殺人事件。長編ばりに登場人物が多い。雪の足跡や血の指紋、琴の音色、謎の三本指の男など独特のおどろおどろしい舞台装置が完璧。物理トリックを揶揄する探偵たちに勝負をかけるように、これでもかとややこしく複雑な物理トリックが仕掛けられている。このトリックの説明がなんとも、、古い日本家屋の各部の名称や琴の専門用語で語られるせいもあって文章だけではなかなか理解が及ばない。トリックを実演してくれている動画を見に行ったのだが、やはり成功率は低いようだ。まあでも雰囲気だけでも凄いので充分名作の名に恥じない作品かと。それよりも動機の時代錯誤感というか女性差別意識が根強く印象づいている作品で、現代風に言えば「キモイ」。だがそれもまた時代モノを堪能する上で欠かせないオモシロ要素かと。
 
「車井戸はなぜ軋る」
村一番の名主だった本位田家で起きた殺人事件。金田一は語り手へ手紙を渡すだけの役割となっている。これもなんとな~く、ソックリな同年代の青年の1人が復員してきて、、のあたりは覚えていたな。これは「入れ替わりトリック」に挑戦した作品で、作中では既に似た者同士の片方が殺される事件では入れ替わりが探偵小説の定番であることに言及している。そこをいかに読者の予想を裏切ってくるかが読みどころ。
車井戸、という舞台装置もさることながら三つの家同士の軋轢や恨みがうまく恐ろしげな雰囲気を醸し出していて良きかな。
 
「黒猫亭事件」
こちらは「顔のない屍体」をテーマにしている作品。探偵小説では顔が潰れていたり首がなかったりした場合必ず入れ替わりが行われている、果たしてこの事件ではどうか。という読者に対する挑戦を行っている。娼館「黒猫亭」の庭先に埋められていた顔の腐乱した女性の全裸屍体。消えた元経営者夫婦の謎。殺されていた黒猫と、ソックリなもう一匹の猫。黒猫亭の周囲が寺となっているところが事件を複雑化しており、中国から引き揚げてきた夫婦など時代をあらわす特徴的な事情がさらなる混迷を招いている。加えてこれまた長編さながらに登場人物が入り組んでおり、ただでさえややこしい身元不明モノにさらに拍車をかけている感。金田一の推理がとにかく複雑で難解で長く、メモを取りながら必死でついて行った。3作の中では一番のお気に入り。
 
以上。
どれも「獄門島」事件が終わってすぐに金田一が関わった事件(本陣は未確認)。彼の名声はもうどこにでも轟いているので変人ながらも刑事や関係者らに受け入れられやすくなっている。中編集ながらもどれも長編並の内容で(そればっかり言ってるが)、読むのに労力は使うが時代ならではの恐怖感や臨場感が味わえる。それにしても、金田一アメリカ帰りで麻薬中毒者だったことはすっかり忘れていたな。。