すべてが猫になる

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もういちど生まれる  (ねこ3.7匹)

朝井リョウ著。幻冬舎文庫

彼氏がいるのに、別の人にも好意を寄せられている汐梨。バイトを次々と替える翔多。絵を描きながら母を想う新。美人の姉が大嫌いな双子の妹・梢。才能に限界を感じながらもダンスを続ける遙。みんな、恥ずかしいプライドやこみ上げる焦りを抱えながら、一歩踏み出そうとしている。若者だけが感受できる世界の輝きに満ちた、爽快な青春小説。(裏表紙引用)
 
大人になりきれない、何者かになりたい19歳の男女を主人公にした、瑞々しくもほろ苦い青春連作短篇集。朝井さんらしいドロっとした感情が赤裸々に描かれていて傷つきながらも必ず誰にでも光ある出口が見えるかんじ。なかなか良かった。
 
「ひーちゃんは線香花火」
彼氏がいるのに友人の男子にキスをされ悩んでいる大学生・汐梨。
彼氏の無責任な「たいしたことじゃない」の口癖に最後には救われる。誰にでもありそうな、不器用な平凡な恋愛模様がいい。
 
「燃えるスカートのあの子」
理解できない映画を撮る先輩やダンスで一目置かれている幼馴染を観察しながら、バイトが続かず自分には何もないと達観する翔多。
「何者」の主人公に似てるなあ。19歳なんてこんなもんだと思う。今が1番楽しい人かそれを俯瞰している人か。年をとればどちらも中身は同じだって分かったりするよね。
 
「僕は魔法が使えない」
美大生の新は亡き父の作ってくれた金色のカレーや、ナツ先輩の絵の才能を「魔法」だと思っていたが…。
人を羨んでいたり目をそらしている間は見えないものってあるよね。また同じことを書くけど、19歳なんてこんなものだと思う。「すごい」って思っている人が、親しくなったり年月が経てば実は違うことが分かった、あるいは陰ですごく努力をしていた、なんてよくあること。気にすんな。
 
「もういちど生まれる」
前作に登場した「椿」の双子の妹「梢」視点の物語。全て椿より劣る梢は、椿のふりをして学生映画のヒロイン役に挑戦するが…。
20歳の誕生日が特別だっていうのに今は異論はないけれど、自分は当時まったく意識しなかったけどな。周りもそうだったような。こういうのって20年くらい経ってから大事だったって気づきそうなもんだけど。20歳の誕生日に「生まれ変わる」って意識を持てるってラッキーなことだと思うな。
 
「破りたかったもののすべて」
前作で登場した「ナツ先輩」の妹、ナツ。ダンス・スクールに通いプロのダンサーを目指すが、高校生の頃みんなからもらっていた「すごい」も、19、20歳になったら誰にも言われなくなった。。
これは読んでいてヒリヒリしたなあ。。そりゃ、15~18歳の子がそれを目指している姿と、成人では他人の目はまるっきり変わるだろうから。いつまでも「すごい」の言葉をくれる存在って貴重だよね。ナツ先輩の絵には感動したな。
 
以上。
この世代の人が読むよりそれをとうに過ぎた人が読むほうが感じるものは多いと思う。誰の思い出にもある若者の奢りや不安、輝き、自信、を隠すことなく描いているので、大学生が読んだら「普通の日常」なんじゃないかな。こういう目をそらしたい、ないことにしたい感情を描くのが朝井さんは本当にうまい。