すべてが猫になる

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そこへ行くな  (ねこ4匹)

井上荒野著。集英社文庫

一緒に暮らす純一郎さんは、やさしい人だ。出張が多くて不在がちだけれど、一人息子の太郎をよく可愛がっている。じゅうぶんに幸せな親子三人の暮らしに、ある日「川野純一郎の本当のことを教えます」と告げる女から電話が舞い込み―(「遊園地」)。行ってはならない、見てはならない「真実」に引き寄せられ、平穏な日常から足を踏み外す男女を描いた七つの物語。第6回中央公論文芸賞受賞作。(裏表紙引用)
 
初・井上荒野さん。女流作家さんで新規開拓したいなと思って、なんとなく目についた本を。芥川賞作家?よね?
 
「遊園地」
映像プロダクションに勤める夫(未入籍)は長期の出張が多く忙しい。ある日妻のもとへ「夫の本当のことを教える」という謎の女からの電話がかかってくる。夫には別の家庭があるというのだ。
結局、夫に別の家庭があるのか断定的ではないし、謎の電話の正体も誰なのか分からない。この結末から3人がどう向かうのかも分からない。不穏ではあるけれど、いいのか悪いのか色がない感じが特徴。
 
「ガラスの学校」
夫に離婚を突きつけられている匡子。実家で暮らす妹の亜樹も夫とうまくいっていないようだ。母親が長野県で事故死した家庭。夫の「相手」と相対するも結局離婚理由は分からないし、母がガラスの学校に通うつもりだったのかもハッキリとは分からない。
明るい未来が待っている感じすらしないが、このままなんとなく前には進んでいくのかな。
 
「ベルモンドハイツ401」
3編目になるとますます分からなさに拍車がかかる。中学時代の同窓生男女が中年を過ぎてあの頃の過ちを振り返る話、なのかな。時系列が行ったり来たりするので混乱。実際にどういうことがあったのかは分かるが、彼女の気持ちだけが分からない感じかな。全員よく分からないが。。
 
「サークル」
大学生活の4年間をアマチュアシンガー・ヨリトモのサポートに捧げた慈子たち3人の女子大生。しかしヨリトモが万引きで捕まり…。
面白かった。仲間ってしたたかなものよね。男のクズっぷりはステレオタイプだけども、ほとんどの成功しないイケメン歌手ってこんな程度かも?気概が足りない。慈子のダメさも、自分がないからバンドマンに依存して都合のいいだけの存在になってるこういう子いっぱいいたなあ、と。
 
「団地」
結婚3年目、団地に引っ越してきて3年目の36歳の主婦・可南。編みぐるみ教室の講師をすることになり、団地のお年寄りとも打ち解けてきた気がする。しかしネットで自分を中傷するブログを見つけてしまい。。
これはよく分からない話だった。ブログを書いた人が分からないどころか、敵意を持ってそうとか親切すぎるとか、「怪しい」人すらいないんだもの。不妊も含めて、幸せだけれども閉塞感とか心のなんやかやを団地で表現しているのかな。
 
「野球場」
社会人野球チームと、誰とでも寝る地味な管理室の女の話。これもよく分からない??
結局ナニモノだったんだろう。性病かなんかにかかってて、ヤケになって移しまくってるんだろうか?と深読みしたけれど。
 
「病院」
ダントツに良かったのがこれ。感想を回ったところ、みんなこの作品に心打たれたもよう。唯一「ちゃんと分かる」「出口がある」話だったし。
中学生男子が、余命わずかな母親といじめられ骨折したクラスメイト泉のお見舞いを続けるうちに自分自身を見つめ直していく成長物語。見ようとしていなかった都合の悪いものから逃げないで良かった。
 
以上。
点のほとんどは「病院」に捧げたものと言っても過言ではなく。純文学の分野だと思うので、起承転結の転結がない感じなのがちょっと自分に合わない気はした。けれど文章は綺麗で読みやすいし題材は好みだった。なんとも判定のしにくい感じ。他の本も読んでみようかな。