すべてが猫になる

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死にがいを求めて生きているの  (ねこ4.2匹)

朝井リョウ著。中公文庫。

俺は、死ぬまでの時間に役割が欲しいだけなんだよ――日常に倦んだ看護師、承認欲求に囚われた大学生、時代に取り残されたTVディレクター。交わるはずのない彼らの痛みが、植物状態の青年・智也と、彼を見守る友人・雄介に重なるとき、歪な真実が露になる。自滅へひた走る若者たちが抱えた、見えない傷と祈りに触れる物語。(裏表紙引用)
 
<螺旋プロジェクト>の1冊。「シーソーモンスター」の記事で説明をしたので省きます。。やっと、<海族山族>の対立の設定を活かしつつ作者のオリジナルストーリーが薄まらない作品に出会えたかなあ。
 
ナンバーワンよりもオンリーワン。ゆとり時代を支え、社会現象になったヒット曲の歌詞が若者たちに与えたのは「個性を尊重する競争のない世界」ではなく、自身が何者かにならなければならないというプレッシャーと自分自身で自分の価値を評価しなければならないという新たな試練だったんだなと強く感じる。この作品に登場する若者たちは、皆なんらかの闇を抱えている。毎日同じことの繰り返しで患者の死にも無感動になった看護師、本当は興味がないのに尖閣問題や原発問題などへの政治批判活動を続ける大学生、生きづらい人々に寄り添う番組よりも無人島生活や冒険ロマンを求める時代遅れのテレビマン。作品タイトルを「生きがい」に変えても成立しそう。
 
周りは自分のことしか考えていない、世の中を自分が変えたいという大義名分を掲げながら、ここに登場する若者はみな自分が1番自分のことしか考えていない偽物だと思い知ることになる。彼ら1人1人を批判するのは簡単だが、教育や環境がこういう系統の若者たちにその道しか示せなかったこともまた真実だろう。光り輝くはずの青春時代を承認欲求でしか満たせる手段を持ち得なかった彼らがひたすら痛々しかった。同世代を生きたであろう朝井さんの持ち味を充分に発揮した意欲作。