すべてが猫になる

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鏡じかけの夢  (ねこ3.7匹)

秋吉理香子著。新潮文庫

その鏡は、磨く者の願いを叶えるという。会いたい、羨ましい、妬ましい、もっと欲しい、憎い……。願えば願うほど、心に秘めた黒い欲望は醜く膨れ上がり、全てを呑み込む。看護婦の羨望。鏡研ぎ師の嫉妬。踊り子と富豪の禁忌の愛。戦争孤児と奇術師の絆。ヴェネツィアの双子姉妹の過ち――。鏡に魅入られた人々が陥る、束の間の甘美な愉悦と残酷な結末を描いた、五つの物語。(裏表紙引用)
 
秋吉さんの連作短篇集。その鏡を磨けばその者の願いを叶えるという。鏡をめぐって様々な人々の運命が狂わされる――。
 
「泣きぼくろの鏡」
精神病に冒された資産家婦人。看護師は婦人を殺し夫の心を奪う――。
悪いことをしたやつは捕まるの典型なので先は読めるが、鏡というモチーフが恐怖をあおる。自分に返ってくる報いの残酷さ。
 
ナルキッソスの鏡」
鏡研ぎ師が出会った美青年との歪んだ恋愛模様
認めたくない気持ちが歪んだ精神を育ててしまったのかな。同じ気持ちだったのに、こんな結末は悲しすぎる。
 
「スタアの鏡」
舞台女優のパトロンとなった男は耳も聞こえず口も利けず、痛々しい火傷の跡に蝕まれていた――。
利用されていると分かっていても尽くす人間というものがこの世にはいるらしい。彼を狂気に駆り立てたのが何かと考えると自業自得な気も。
 
「奇術師の鏡」
傷痍軍人の男が出会った孤児には、奇術の才能があった。彼は親のように少年を育て指導するが――。彼の親心が悲しい。孤児の少年に希望と人生を与えた。
 
「双生児の鏡」
戦争により浮浪児となった双子の女児。憧れのヴェネツィアでサーカス団に雇われ、望みが叶ったかに見えたが――。
姉妹の裏切りが実は自分を思ってのものだった。醜い大人の餌食になる話はやりきれない。
 
以上。
連作としてよく出来ていると思う。それぞれのお話もドラマ的で同じ鏡なのに別の色合いがあるのがいい。鏡って神秘的な分、ちょっと怖いイメージがあるのでホラーの題材にはもってこいかも。