すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

イノセント・デイズ  (ねこ4匹)

早見和真著。新潮文庫

田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は…筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。日本推理作家協会賞受賞。(裏表紙引用)
 
初・早見さん。以前「店長がバカすぎて」の1話を読んで挫折した経験があるのだが、こちらはジャンルも違うようだし話題作だしということで読んでみた。同じ作者とは思えない吸引力と題材だったな。
 
元交際相手のマンションに放火し妻と双子の娘が焼死した事件で確定死刑囚となった田中幸乃。彼女は罪を認め、ひたすら反省し、刑の執行をおとなしく待っているという。幸乃の人生に関わった多くの人々が封印された過去を暴き出し、幸乃がなぜそうなってしまったのか、彼女は本当にやったのか、マスコミが知らない事件の本当の姿が浮かび上がる。
 
生まれついてのサイコパスというものがいるのかいないのかは知らないが、この事件の犯人・田中幸乃に限っては決してそうではないと断言できると思う。虐待をする親、交通事故で死んだ母親、引き取った祖母、学校の友人、交際相手、幸乃を取り巻く人間の悪意が幸乃という人間の人格を形成したのは間違いない。悲惨な家庭環境でもまっすぐに育つ人間はもちろんいるが、だからと言って幸乃に周りの人間の影響が全くないわけがない、むしろこれでまっすぐに育つほうが困難なのでは。それと無実の人間を殺した罪は別に考えるべきだが、まあそれはこの作品を最後まで読んで語れること。
 
このラストは重たくショッキングなので、不満をおぼえる読者も多いだろうと思う。自分も正直「ええ。。。」と思ってしまった。まあこんなことがあっていいとは思わないし幸乃の考えは追い詰められた末のレアケースだけども、一応小説としてはまとまっているよね。何らかの感情は生まれるわけだから。