すべてが猫になる

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流浪の月  (ねこ4匹)

凪良ゆう著。創元文芸文庫。

あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(紹介文引用)
 
本屋大賞で話題になっていたので読んでみたが、なかなかにハードな小説だった。ロリコンの大学生・文が、両親を失い親戚の家で性的虐待を受けている9歳の少女・更紗を誘拐する。家に居場所のない更紗と心に傷を持った男子学生の間には恋愛感情とは別の強い絆が生まれた。しかし文は逮捕され、更紗は「ロリコンに誘拐され性的いたずらを受けたであろう可哀想な少女」として残りの人生を生きていく。他人の善意や憶測がいかに真実と乖離しているかが物語の肝で、共に世間の偏見にさらされてゆく姿がリアルだ。
 
倫理的にどうかという視点ならアウトなのだろう。常識ある人間ならば誘拐などするべきではなかった。少女の壊れかけた心が救われたのも結果論だと思う。その点、特に文に関しては無辜の人間ではないし、更紗の破滅へ破滅へと向かっていく性格もいただけなかった。DV男と別れてからも自分から会いに行ったり、夜逃げをしたのに職場を変えなかったり、大事なことを伝えられなかったり。
 
美しい愛の物語なのかなあ…。自分の頭が固いのかな、イライラと嫌悪感が勝って世間のように純粋に感動したりは出来なかった。タブーの関係を描いた名作など世界に溢れているのだろうが、これがそのレベルに到達しているかと言われると疑問が…。今回は読む手の止まらない面白さという点のみで評価した。力のある作者さんだと思うので他の作品のほうに興味がある(BLのことではない)。