すべてが猫になる

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読書セラピスト/La Lettrice Scomparsa  (ねこ3.7匹)

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ファビオ・スタッシ著。橋本勝雄訳。東京創元社

悩める人々に文学作品を処方する読書セラピーを始めたヴィンチェ。彼のスタジオの階下の女性が失踪、状況証拠から夫が疑われる。読書家の彼女が読んでいた本のリストからヴィンチェは真相を探り出す。失踪女性の物語は、「失踪」「別の人生」「入れ替わり」が大きなテーマだ。人々の様々な悩みと彼の処方する作品の数々は味わい深い。シェルバネンコ賞受賞のビブリオ・ミステリ。(紹介文引用)
 
創元ライブラリの新刊。
ローマ生まれの作家ファビオ・スタッシは元ローマ大学の司書で、通勤列車内で執筆したデビュー作はヴィットリーニ賞を受賞しているとのこと。読書セラピーという職業は本当にあるらしく、13年にはセラピストの本の編集も手がけたのだとか。
 
被害者が死の直前まで読んでいた本のリストから真相を暴くというストーリーの奇抜さと、主人公の読書セラピーという仕事に興味を持って読んでみた。読んでみればちょっと思っていたのとは違ったのだが……。ミステリーというよりは人間の奥深い闇や自意識を主人公の目を通して問いかける文学。この主人公は元国語教師だが仕事が見つからず、「くさくさしながら」アパートを借りて商売を始めたという経緯がある。小説には造形が深いがそれだけで、クライエントである女性たちを度々怒らせてしまう。酷い髪の悩みや夫との不和、男性憎悪、攻撃性。女性であることの苦しみ。主人公の場合はクライエントらが読書家で知性があるがゆえに多々失敗を重ねたが、本を薦められて人生を再生しようという行為自体、効果があるのはごく限られた人種だけではないだろうか。欝状態で精神的に破綻している主人公は文学に感動するだけの冷淡で臆病な人間だ。
 
殺人事件の真相を暴くシーンはきっちりと後半にあるが、全体的に重きを置いているのはクライエントや主人公の分析。これを一つ一つ噛み砕けるかが楽しめるかの鍵となるが、自分には少し難しすぎたようだ。男が家族を置き去りにしてすぐ側の家を借り20年間家族を観察するという「ウェイクフィールド」だけは気になった、面白そう。