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楽園ジューシー  (ねこ3.5匹)

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坂木司著。角川書店

ここは楽園じゃないけど、面白いところではある。 「残念なパーマの、残念なハーフ。人呼んでザンパ」。不名誉なあだ名とともに暗黒の少年時代を過ごした青年ザッくん。どん底から救ってくれた親友たちに背中を押されて、沖縄の安宿・ホテルジューシーでバイトをすることに。そこで待ち受けていたのは、おいしい沖縄料理の数々に超アバウトなオーナー代理、そしてやたらと癖のある宿泊客たち。困難に立ち向かいながら、諦めムードだったザッくんの人生が、南風とともに変わっていく……?(紹介文引用)
 
「ホテルジューシー」続編。
 
続編だけど、引き続いてのキャラクターは記憶の限りではオーナー代理とセンばあウメばあぐらい。今回は、ミックスであるが故の見た目の問題から辛い幼少時代を過ごしてきた無気力少年・ザっくんが主人公。はみ出し仲間の2人といつか沖縄に行くことだけを夢に見て、なんだかんだ流されて「下見」がてらホテルジューシーでバイトをすることになったザっくん。これがまあ、およそ読者の好感度をハナから投げ捨てちゃってるような後ろ向きネガティブキャラ。他人の目を気にしすぎていて、特技も趣味もなくて。冷静に見れば「お客さんに失礼な態度を取らない」「真面目」っていう長所があるのにもどかしい。そのザっくんが沖縄で色々な人びとと接することによって生まれ変わる・・・なんていうスッキリした展開にもならない。他人に欠点を次々指摘されて、その影響で「反省する」と表現したほうがいいかもしれない。
 
さて、内容だけども、前作のような完全な連作短篇集という構成ではなくて、長編の中に色々なお客さんが出てきて疑問点が見えてくるという形。このお客さんたちも、なんだかなあ…。特に最初の女子二人組、被害妄想の自意識過剰が強すぎるような。関わった男子二人組も、読む側が見てそこまで言われるようなことはしていない。自分の年齢のせいかもしれない、もうこういう10代の子のモヤモヤには感受性が働かなくなってしまった。しっかりした大人の男性以外にはそっけない「家父長制キャラ」のおじさんは目を覚まさないままだし。唯一共感できたのは、自分と年齢が近い軽部さんかな。(しかし沖縄って、ここまで家父長制度がまだ徹底しているとは(家によるみたいだが)。勉強になった。ただ、女性の生きづらさを表現したいのは分かるけどちょっとそれはズレてるかなあと思う意見もチラホラ。夜道を女性が歩けないことはこの際関係ないと思う。色々と、好感の持てないキャラばかりだったな。
 
というわけで、沖縄旅行を疑似体験させるような観光名所などはほとんど出てこず。ザっくんがホテルからほとんど出ないので。沖縄の家庭料理が美味しそうに出てくるぐらいかな。ザっくんのようなタイプの子が一回沖縄に来たからって嘘のように生まれ変わるほうがリアリティがない気がするので、まあこれはこれで完成度が高いのかな。