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完璧な母親  (ねこ3.8匹)

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まさきとしか著。幻冬舎文庫

流産を重ね授かった最愛の息子が池で溺死。絶望の淵で母親の知可子は、息子を産み直すことを思いつく。同じ誕生日に産んだ妹に兄の名を付け、毎年ケーキに兄の歳の数の蝋燭を立て祝う妻の狂気に夫は怯えるが、知可子は歪な“完璧な母親”を目指し続ける。そんな中「あなたの子供は幸せでしょうか」と書かれた手紙が―。母の愛こそ最大のミステリ。(裏表紙引用)
 
まさきとしかさん2冊目。
「あの日、君は何をした」のイメージ通りのイヤミス。やっと授かった最愛の息子波琉を事故で失い、狂気の末母親は同じ子どもを「産み直」し、娘波琉子を息子の年で数え「あなたは兄の生まれ変わり」「お母さんは、いい母親?」と繰り返す。このように育てられた子どもがまともに育つはずはなく、読者の想像通り物語は破滅する展開へ――と思いきや、第2章から全く違う家族の視点に切り替わる。「赤鬼(母親)」に虐待され育った青年の姉が、波琉子の兄の生まれ変わりだと主張するのだ。間に挟まれた波琉子と母親の隣人母子の虐待疑惑も絡まってさらに想像のつかない結末を迎える。
 
ミステリ的にも意外性があったり、複雑に絡まった人間関係も明らかになってスッキリ。狂気の母親に育てられた子どもたちは結局一生母親の呪縛から逃れられないのかなあと暗澹たる気持ちにも。それより何より、ここに出てくる男親の役に立たなさと「完璧な母親」という言葉の強さが引き立ってしまう。この狂気は個人の問題にすり替えた社会の歪みなのかも。