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貘の耳たぶ  (ねこ3.5匹)

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芦沢央著。幻冬舎文庫

自ら産んだ子を「取り替え」た、繭子。発覚に怯えながらも、息子・航太への愛情が深まる。一方、郁絵は「取り替えられた」子と知らず、息子・璃空を愛情深く育ててきた。それぞれの子が四歳を過ぎた頃、「取り違え」が発覚。元に戻すことを拒む郁絵、沈黙を続ける繭子、そして一心に「母」を慕う幼子たち。切なすぎる「事件」の、慟哭の結末は……。(裏表紙引用)
 
産院で、自分の子どもと知人の子どもを入れ替えてしまった母親と、取り替えられた母親。お互い愛情深く4歳まで育て、あるきっかけからDNA鑑定により「取り違え」が発覚するという衝撃の物語。
 
こういうテーマのものが一時期流行ったので斬新さはないものの、我が子ではないと知りながら発覚を恐れながらも子を愛し、片方は自分の子どもと信じて疑わず愛情深く育てる、その設定にはハラハラしつつもリアリティを感じる。丁寧に丁寧に子どもが育っていく過程が描かれているので、このまま発覚しなければ誰も傷つかないのでは、、などという間違った感情にも支配されてしまう。それにしても、今の子どもというのはこれほど神経質に大切に育てられるんだなあとジェネレーションギャップも感じた。(もちろん人それぞれだけど、客観的に)
 
発覚してからの悲劇はもう想像以上なのだけれど、そもそも繭子が取り替えた理由や動機が弱すぎて、入り込みきれなかったのはそれが致命的だったような。一般的に、母親の苦悩を理解してあげてと言うけれど、この作品に関してはそこが圧倒的に足りなくてしょぼかった。一気読みさせる面白さはあるのでもったいない。