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三千円の使いかた  (ねこ3.8匹)

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原田ひ香著。中公文庫。

就職して理想の一人暮らしをはじめた美帆(貯金三十万)。結婚前は証券会社勤務だった姉・真帆(貯金六百万)。習い事に熱心で向上心の高い母・智子(貯金百万弱)。そして一千万円を貯めた祖母・琴子。御厨家の女性たちは人生の節目とピンチを乗り越えるため、お金をどう貯めて、どう使うのか?(裏表紙引用)
 
初・原田ひ香さん。知らない人のブログでたまたま知って、面白そうな本がたくさん出ているようなので適当にコレを選んでみた。
 
御厨家の長女(真帆)、次女(美帆)、母(智子)、祖母(琴子)、三世代に渡る女性たちの、それぞれのお金の使いかた。基本的に、経済的にゆとりのない人びとを描いているので、だからこそ性格や状況次第で結果が違ってくるのが面白い。月収23万円の消防士と結婚し娘をもうけたしっかり者の長女、中古の一軒家を買って犬と暮らすために一千万の貯金を始めた次女、自身にがんが見つかり、友人が熟年離婚し、自分の夫が家事を全くやらないことに不満を抱き始めた母、73歳にして老後の資金の不足が気になり職探しを始めた祖母。
 
次女の美帆は節約のためと言いながら弁当箱や貯金箱や無駄な食材を買いセミナーに通うなどして「ああ、お金がないと言っている人はこういうからくりでお金がなくなるんだな」と思わせてしまう。寄ってくる男もそれなりに安い感じがして、近くの親戚にいたら説教したくなるタイプかも。
 
琴子と鉢植え友だちになった40代のフリーター、安生の章はいまいちよく分からなかった。恋人に子どもが欲しいと言われて海外に逃げるとか、旅行で知り合った若い子と一回関係を持って妊娠させてしまうとか、こういうダメンズに惹かれる女性が心の底から理解できない私としては、安生に終始イライラ。
 
長女の真帆はしっかりしているので何の問題もなさそう。要は友人の目を気にするかしないか。女って、選ぶ男次第でここまで人生に差がついてしまうのか、とこの本を読んでも思うし自分のリアルでも思う。祖母の琴子もそうよね。73歳で働く意欲があって元気なのはいいな。
 
どの登場人物に共感したか?って話をするなら、母の智子の章が1番自分に近いかな?と思った。これから死ぬまで毎日、この人のために出汁をとったり生姜をすったり梨の皮むいたりしなきゃいけないのか、と思うとゾっとするという気持ちは分からんでもない。
 
で、最後は美帆の章に戻るわけだけど、結婚を考えている恋人に550万の借金があることが分かって悩むという展開。結婚後、毎月3万円を20年支払わなければいけないと考えると夢の一戸建ては諦めるしかない。月3万円の出費でそこまで逼迫してしまうというのは、、お金の問題ってつくづく大事なんだなあと思った。愛とか節約とかそういうレベルじゃないところで、それぞれのやり方と幸せを見つけるしかないかも。お金があっても暴力的だったり浮気をする配偶者なら不幸なわけだし(それにしても、「ちょうどいい男」っていうのがいかに希少かを考えさせられる)。
 
共感、というより「人は人なんだからこの人たちがそれでいいならいいんじゃない?」に近い読後感。
身近にいそうな人びとの性質がよく描けていると思う。実際、こういう人いるいると何度も思った。不快すぎない、過激すぎないリアルさと読みやすさも今の気分にちょうどいい。いつも読んでいる作家さんを読んでいるみたいな安心感があってすぐ馴染んだ。他の作品も読んでみたい。