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自由研究には向かない殺人/A Good Girl's Guide to Murder  (ねこ4匹)

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ホリー・ジャクソン著。服部京子訳。創元推理文庫

 イギリスの小さな町に住むピップは、大学受験の勉強と並行して“自由研究で得られる資格(EPQ)"に取り組んでいた。題材は5年前の少女失踪事件。交際相手の少年が遺体で発見され、警察は彼が少女を殺害して自殺したと発表した。少年と親交があったピップは彼の無実を証明するため、自由研究を隠れ蓑に真相を探る。調査と推理で次々に判明する新事実、二転三転する展開、そして驚きの結末。ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、イギリスで大ベストセラーとなった謎解き青春ミステリ!(紹介文引用)
 
ブリティシュ・ブックアワード受賞の、英米で大ベストセラーになった本らしい。
主人公は17歳の女子高生・ピップ(ピッパ)。面白い名前だよね。どうしても我々は肩こり治療のあの石を思い浮かべてしまうが…。イギリスでもよくある名前ではないのではないかな。まあそれはいいとして。ピップがEPQで選んだ課題は、5年前に行方不明になった同級生・アンディを交際相手の少年サルが殺害し、そのあと自殺した事件だった。サルが人を殺したなんて信じられない。最初は感情だけで調査を始めたピップだったが、サルの弟ラヴィと共に様々な関係者に話を聞くにつれその考えに確信を持つようになる。
 
とにかくピップの明るいキャラクターがいい。優しく正義感が強く、諦めない。自分自身、父親を亡くし、肌の色の違う義父、義弟と暮らしている経験から、他人の偏見や差別に対して敏感でもある。いじめや犯罪、寃罪に対して、決してブレないところも魅力。ワトスン役のラヴィとの相性も抜群で、恋愛関係ではないのだけれど、お互い同じ信念を持ってそれぞれの得意分野で力を発揮する。ひと昔前までのティーン探偵ものと大きく違うのは、彼らがスマホ、パソコンなどの現代機器を駆使して調査するところ。交友関係やアリバイを調べたければフェイスブック、尾行するまでもなくGPS。LINE画像や殺人マップ、インタビューやメールのやり取りなども小説内に取り込んでいて面白い。デジタルのみならず、日記や脅迫状なども登場。読んでいて、大人やプロ顔負けの手応えがある。さらに被害者の家に忍び込んでクローゼットに隠れたり、愛犬を誘拐されデータを消去させられたり、犯人の家へ乗り込んだりとアクション方面のスリルにも事欠かない。これは面白いぞ。長いけど。
 
小さな町で起きた事件なので、関係者が全てピッパの知り合いか知り合いの知り合いであるというところもドラマを生みやすいな~と。サルの寃罪?を晴らせたとして、真実で自分の身内や親友、その両親、先生などが関わっていたら?それでもピッパは正しい道を選べるか、というところがミソ。ピッパも割とキツい目に遭います。
 
ドラッグやレイプ、ひき逃げなど、自由研究のテーマにするにはそれどうなん?という内容だが、ピッパの取り組む自由研究は日本人がイメージする夏休みに小学生が取り組む昆虫の生態やら砂絵といったレベルのものと一緒にしてはいけないらしい。まあ、それでもどうかと思うが。。。
 
長いのがちょっとキツいが、変わっていて読みやすくてなかなか楽しかったと思う。シリーズ2,3作と続いているらしいので出たら必ず読みたいな。