すべてが猫になる

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水上音楽堂の冒険  (ねこ4匹)

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若竹七海著。創元クライム・クラブ。

事故により記憶傷害を抱える荒井冬彦の通う高校で起きた女生徒殺人事件。容疑は女生徒と当日諍いを起こした冬彦の親友・坂上にかかった。冬彦は幼馴染の真魚と共に犯人を突き止めるべく奔走するが…。
 
若竹さんの未読本。長編第2弾とあるから相当昔の作品のよう。若竹作品で唯一文庫が出ておらず、これからも出ないであろうことから(出ない理由は読めばハッキリする。キで始まる言ってはいけない言葉が乱用されまくっている)借りてきた。未読があると気持ちが悪いので。
 
若干の時代の古さはキャラクターの言動に感じるものの、まるで樋口有介のような甘酸っぱさ。10代の少年少女の、煙草や性に奔放だがなぜか懐かしみを感じる爽やかさがある。。。。と言いたいところだが、そう思っていたのはごく前半まで。初期作品ながらも、若竹七海は最初から若竹七海であった。もしかしたらこれは人類最初のイヤミスではないだろうか。最初はただのモラトリアム少年に見えた冬彦の性格の悪さ、口の悪さがどんどん露呈してきて辟易するし、若者のみならず冬彦の家庭環境の異常さや10代の自覚のない悪意が噴出しまくっている。そして信じていた人たちの裏切り。自分が何者であるかの葛藤。これは非常に後味が悪い。凹むことうけあい。
 
それぞれの脇役が随所で光っているのはさすが。説教くさい喫茶店の店長、愛人に囲われ世界を放浪しまくる母親、幼馴染のいじめっ子(こやつがまさか最後のオアシスになるとは思わなかった)などなど。
 
しかし、この内容と剥離している表紙とタイトルは狙っているのか…??イラストレーターの方は本当にこれを読んでなおこれを描いたのだろうか。感想を廻っていたら同じように感じた読者が多いようで、「表紙…誰やねん」と突っ込んでいる人に笑ってしまった。