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兇人邸の殺人  (ねこ4.5匹)

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今村昌弘著。東京創元社

『魔眼の匣の殺人』から数ヶ月後――。神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子が突然の依頼で連れて行かれた先は、“生ける廃墟"として人気を博す地方テーマパークだった。園内にそびえる異様な建物「兇人邸」に、比留子たちが追う班目機関の研究成果が隠されているという。深夜、依頼主たちとともに兇人邸に潜入した二人を、“異形の存在"による無慈悲な殺戮が待ち受けていた。待望のシリーズ第3弾!(紹介文引用)
 
待望の待望の待望のシリーズ第3弾。ちょっと出遅れました。
 
いやいやいや、期待に違わず今回も面白かった!!
 
くだんの班目機関に一部援助をしていた医療・製薬企業・成島グループの社長が比留子さんに接触、流出した技術回収のためH県馬越ドリームシティにある兇人邸へ乗り込んだ葉村くん一行。前作までの、大企業による謎の研究という統一した設定を踏襲しているので、今回もあの不気味で非現実的な世界観を維持している。
 
なんといっても今回、実験により巨大・凶暴化した巨人が出てくるのだ。なので、本館と別館で切り離された登場人物たちが、巨人に出くわさずにいかに鍵を手に入れ脱出するかというのが本作の話の肝となっている。単に脱出できればいいというわけではない。すぐ側にはテーマパークがあるので巨人を外に解き放つわけにはいかない、警察と関わりたくない、人命(他人の)よりも目的を達しなければいけないという重視するものがバラバラな者たちが力を合わせるのは非常に困難。クローズドサークルにも色々あるけれど、物理的なものではないあたりが斬新だ。跳ね橋を下ろせば光が入り巨人が出てきてしまうというのがミソ。そこで巨人の手によらない殺人事件まで発生するのだから、状況は混乱を極める。
 
書いたように、今までの本格ミステリーの要素よりは脱出モノの要素が強く、比留子さんによる冴え渡る推理が今回は若干物足りないかも。瑕疵があるわけではなく、もっと長く推理を聞きたかったなあという意味で。それよりも、探偵としての矜持の再生やワトソン役としての葉村くんの決意のほうに胸を打たれた。決して比留子さんを(探偵として)諦めないという言葉。そして、本格ミステリーの永遠のテーマである「探偵が死を未然に防ぐ(なるべく)」ことに重きを置いたことは素晴らしい。期待するものによっては若干「落ちる」作品であることに異論はないが、ジャンルの先を切り開かんとする姿勢を評価したい。3作読んで、今村さんは現代本格ミステリーのトップランナーにふさわしい作家だと確信した。
 
ところで、ラストに登場した名前を見て「だ、誰?」と思った私は読者として薄っぺらくないか。。調べたら分かったけれど、「ああ、あの人ね!」とならないのがやはり自分のブレないところ。