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雷神  (ねこ4匹)

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道尾秀介著。新潮社。

埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。 昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。 真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。 すべては、19歳の一人娘・夕実を守るために……。 なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。 村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇――。 ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。(紹介文引用)
 
ミッチー新刊。好みの黒ミッチーだったので購入。なかなかのページ数だったのと、内容が濃く重たかったので数日かけてじっくり読んだ。読後の気は重いが、充実した読書となった。
 
主人公は小料理屋を営む藤原幸人。妻が交通事故で亡くなってから、一人娘の夕見を男手一つで育ててきた。やがて父が亡くなり、夕見と2人暮らしとなってから、幸人のもとに謎の男から脅迫電話がかかってくる。夕見に隠してきた妻の死の秘密を知っているというのだ。さらに、幸人が30年前に住んでいた新潟県羽田上村で起きた事件のことも――。偶然夕見が提案してきた羽田上村行きをきっかけに、幸人は姉と夕見と共に故郷へ取材と称して調査を試みるが――。
 
プロローグで描かれた妻の事故死の状況がかなり辛いものだったのだが、羽田上村で起きた有力者らを狙ったキノコ毒殺事件とそのあとに起きた落雷事故もかなり気が滅入る内容だった。父は本当に犯人なのか?また、不審死を遂げた母の身に一体何が起きたのか?だいたいの見当はつくものの、事件に関わった人々がそれぞれ事情を抱え、誰かのために、時には自分のために生きた末に全ての歯車が狂った。少し気をつけていれば…自分が行動していれば…人生をやり直せるなら、絶対に同じ行動は取らないのにという幸人の葛藤が重い。この物語にはほとんどの登場人物に本当の悪人はいない。神様は本当にいるのか、がテーマとなっている作品だが、彼らの場合は悪魔に囁かれたのだと言ってもいいかもしれない。何もしなかったことも悪かもしれない。読んでいて答えが出せないということは、人間の弱さ、運命の残酷さを巧みに描いてあることの証明だろう。人の手の及ばない、落雷=天罰という要素が絡んでいるところもうまい。
 
ラストでさらに読者を突き落としてくるあたり黒ミッチーの本領発揮という感じだが、読者に今後の想像を委ねるあたりも達者だなあと思う。自分なら、夕見には言わない。本人がどうしても教えて欲しいと言わない限り。でもこの作品なら、知ったあとの物語を知りたいとも思う。幸人と夕見に、希望はあるだろうか。