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ストーンサークルの殺人/The Puppet Show  (ねこ4.4匹)

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M・W・クレイヴン著。東野さやか訳。ハヤカワ文庫。

英国カンブリア州に点在するストーンサークルで次々と焼死体が発見された。犯人は死体を損壊しており、三番目の被害者にはなぜか停職中の国家犯罪対策庁の警官ワシントン・ポーの名前と「5」と思しき字が刻みつけられていた。身に覚えのないポーは処分を解かれ、捜査に加わることに。しかし新たに発見された死体はさらなる謎を生み、事件は思いがけない展開へ…英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガー受賞作。(裏表紙引用)
 
2021本ミス4位作品。
 
見かけによらずアツイ作品だった。まだ興奮が止まらない。
主人公は国家犯罪対策庁の重大犯罪分析家・ワシントン・ポー。重大なミスにより停職していたが復帰し部長刑事に。独身・彼女なし・38歳。カンブリア州で連続して発生したストーンサークル殺人の捜査を担当する。こういう作品の例に漏れず生い立ちに不幸があり、心に闇を抱えている。そしてやはり警察組織のやり方に不満があり、正義感ゆえの反抗心も強い。署内のいじめを見過ごせず暴力で解決するあたりはご愛嬌か。ポーの相方となるのは天才型引きこもり分析官のティリー。社会不適合者ぎみで扱いにくいが仕事が出来まくる上案外素直なため、ポーとは早々といいコンビに。
 
前半のストーンサークル殺人捜査のあたりは平坦な感じで進み肩透かしなのだが、それは邦題が悪い。物語の中心はむしろ後半のほうで、犯人がおおよそ判明してからの動機の告白やポー自身にまつわる内容が実に濃密でドラマチック。犯人がここまで残酷な犯罪を行わなくてはいけなかった理由が、ポーの警官としての生き様にしっかりと関わりあってくるとは思わなかった。ワシントンという名前の由来やかつてミスをし停職処分となった事件に新たな事実があり、ポーの複雑で一筋縄ではいかない闇の深さに驚く。正義感があるだけの主人公に魅力はなく、ポーの信念や友情のために法に背くことや組織に迎合しない姿勢に強く共鳴できた。現実世界なら成し得ないことでも、小説の中でならポーのような男が自分の代わりにやってくれる。ティリーと徐々に信頼関係が出来、まさに力を合わせて事件を解決し、ポーの命までも救うことになったティリーの成長には本当に感動したし、ティリーの存在があるかないかでは物語の面白さに天と地ほどの開きがあっただろう。彼女はポーより人気が出そうだ。
 
シリーズ化したらしいので続編翻訳希望。映画化もぜひ。