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監禁面接/Cadres Noirs  (ねこ4匹)

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ピエール・ルメートル著。橘明美訳。文春文庫。

 
リストラにあい失業4年目のアラン、57歳。再就職も出来ずアルバイトで糊口を凌いでいたところ、一流企業の最終試験に残ったという朗報が届く。しかしそれは「就職先企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問せよ」なるものだった――。予測不能、驚天動地。知的企みに満ちたノンストップ・サスペンス!(裏表紙引用)
 
ルメートルのノンシリーズ。
カミーユシリーズ以外ってどうなんだろう?と試すような気持ちだったけど、いやいや流石のどこに出しても恥ずかしくないジェットコースターノベルだった。字が詰まっているしページ数も多いので読みやすいわけではないのだが、先が気になって気になって読む手が止まらない感じ。
 
主人公は57歳で失業中のアラン・デランブル。ある日、医薬品の仕分け業務中に上司に尻を蹴られ、カっとなったアランはその上司に頭突きをしてしまう。時同じくして、アランに「ある大企業の人事副部長職の最終試験に選抜された」という手紙が届く。しかしその内容は、人員削減のため上級管理職の緊急時の能力をはかるための「人質拘束事件シミュレーション」の進行役をやれ、というものだった。どうしても仕事が欲しいアランは探偵や仲間の協力を得てこの非人道的なロールプレイングゲームを制したいと願うが――。
 
(まず、設定自体は有り得ないのでそこは割り切って読もう。)「第一部 そのまえ」ではアランが探偵や元同僚の力を借りて事前にその管理職らの情報を得ようと奮闘。しかしそのために妻や娘との仲がどんどん険悪になっていって、トラブルを起こした会社からは訴訟を起こされ、もうどこまで転落していくのかってくらい最悪の展開になってしまう。自業自得だけどね。ある伝手から、あまりにも酷い試験の真相を知って愕然とするアラン。さあどうする!「第二部 そのとき」ではゲームが始まるのだけど、参加者は減っているしアランは様子がおかしいしで、単なるゲームのはずがアランの暴走で国中が注目する大事件になってしまうという。。もうアランが悲惨すぎてかける言葉もない。「第三部 そのあと」ではアランの罪や家族との関係のゆくえが…。
 
頭がいいのか悪いのかわからないアランの作戦に失笑しつつ、妻ニコルが気の毒すぎてそっちで泣きそうになったり。こういう物語を読んでいて、ハッピーエンドを望まないってあまりないんだが。。(妻や娘たちには幸せになって欲しいがアランは二度と娑婆に出てくるなと言いたい)なぜかって、アランがとても共感できる人柄ではなかったこと。探偵に二万五千ユーロも払おうとするってもう頭おかしい。。金貸し業の娘婿にそのお金を借りようとするのだけど、「それが人にお金を借りる態度か?」というぐらい偉そう。もちろん断られるんだけど、そしたらカフェで娘婿を殴り倒すという…そしてそれがバレないうちに娘のところへ行って嘘をついて無理やりお金を借りてしまう。(娘にとって、新居を契約するための大事なお金)。もう妻にも娘たちにもウソをつきまくってめちゃくちゃ。家庭崩壊。そのくせ妻や娘を愛してるって連発するから意味が分からない。。妻は夫が犯罪者になるわ家を奪われるわ誘拐されるわ、どん底を味わわされてるのにアランは「大丈夫、大丈夫だ」しか言わない。絶対うまくいくんだ!絶対返すに決まっている!なぜ分かってくれないんだ!ってギャンブル狂の常套句だよね。。お金があれば幸せだろう?って思い込みすぎててどんな話も右から左って感じ。失業がどれだけ人の心を蝕むのか、ってことを描いているんだろうけど、あまりにも暴力的だし短絡的だし、単純に言ってアランに魅力がなさすぎた。自分なら失業の果てに上司を殴って銃を持って監禁事件を起こすような男、秒で離婚だけどな。ニコルにもイライラ。。
 
面白さ、という点だけで言えば年間1位ぐらいのレベルだったのだが…。先に述べた主人公の好感度のせいでかなり評価を下げた。主人公が不愉快な人物かどうか、って結構ストーリーより大事だったりする。