すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

蒼色の大地  (ねこ3.5匹)

f:id:yukiaya1031jp:20210204214020j:plain

薬丸岳著。中央公論新社

一九世紀末。かつて幼なじみであった新太郎、灯、鈴の三人は成長し、それぞれの道を歩んでいた。新太郎は呉鎮守府の軍人に、灯は瀬戸内海を根城にする海賊に、そして鈴は思いを寄せる灯を探し、謎の孤島・鬼仙島にたどり着く。「海」と「山」。決して交わることのない二つの血に翻弄され、彼らはやがてこの国を揺るがす争いに巻き込まれていく。 友情、恋慕、嫉妬、裏切り――戦争が生む狂気の渦の中で、三人の運命が交錯する。(紹介文引用)
 
文芸誌「小説BOC」の創刊にあたって8組の作家によって執筆された「螺旋プロジェクト」のうちの1作なのだそう。まったく知らず、単に薬丸さんは全部追いかけているから手に取っただけなのだけど…。そうと知っていれば読む順番考えるべきだったか。原始、中世、明治、昭和、平成、近未来~などと色々繋がっているらしい。この作品は明治担当。
 
最初は肌に慣れない時代小説かと思って(しかも海賊もの)うわ失敗したと思ったのだが、すぐに読みやすくなった。ちょっとファンタジー入ってるのか、人間は海族と山族に分かれていて、海族の鯨と呼ばれる海賊たちと山族の軍人たちが対立しているという設定。蒼い目をしているという理由で迫害、差別され続けてきた「青鬼」と呼ばれる人間たちが平穏に暮らせる唯一の島が、鬼仙島というわけ。育ててくれた爺の死を期に、平和を求めて海賊になった灯(あかし)と、島で唯一灯を差別しなかった少女・鈴との哀しいすれ違い。鈴は灯会いたさに単身鬼仙島へ乗り込むが…。
 
テーマは戦争や差別。さらに立場によって、殺人の全てが罪であるのかどうかという薬丸さんらしい題材も少し盛り込まれている。鈴を助けてくれた飲み屋のお鶴さんの立場からすると、海賊は神だろうね。自分でもそうなると思う。しかし海賊に身内を殺された者の恨みも無視できない問題で、どんな大義名分があってもやはり争いは争いしか生まないのだなと思う。
 
で、恋愛小説の側面もある本なのだが…。灯にもっとしっかりして欲しかったな。。結局鈴に想いは伝わっていたのだろうか。。鈴は灯のためにあそこまでしているのに。新太郎がもっとそのへんの関係に食い込んできても良かったのでは。海龍様との対決や終結含め、どうも全体的にあっさりと軽くて物足りなかった。悲恋であり、国が動く大きな物語なのに胸が熱くならないというか。もっと重厚に出来たと思うのだけどな。。
 
まあでも読みやすいし、設定や展開は面白かった。お互いが島と島を行き来して、いつもテレコになっちゃうのがもどかしいのよね。