すべてが猫になる

ヤフーブログからお引越し。

幽女の如き怨むもの  (ねこ4.2匹)

f:id:yukiaya1031jp:20210124134231j:plain

三津田信三著。講談社文庫。

十三歳で遊女となるべく売られた少女。“緋桜”と名付けられ、身を置いた世界は苦痛悲哀余りある生き地獄だった。戦前、戦中、戦後、三つの時代の謎の身投げの真相は“幽女”の仕業か、何者かの為せる業か。謎と怪異に満ちる地方の遊郭を舞台に、ミステリランキングを席巻した“刀城言耶”シリーズ第六長編、文庫降臨。(裏表紙引用)
 
刀城言耶シリーズ長編第6弾。
 
本書は戦前、戦中、戦後の遊郭を舞台にしたミステリーホラーで、「はじめに」と題した刀城言耶による作品紹介、初代緋桜による日記、女将優子による語り、作家佐古荘介の原稿、刀城言耶による推理という構成になっている。第一部は遊女のなんたるかを知らず家の借金のために遊郭へ売られた少女・桜子の遊郭での辛い暮らしぶりが日記という体裁を通して語られ、読むのを止めようかと思うぐらい想像以上に内容がキツかった。仕事の辛さはもとより、客の子どもを宿した遊女の堕胎方法のえぐさ、親の追借金により地獄から抜け出せない現実、死んだ遊女の遺体の扱いの粗雑さ…時代と言ってしまえばそれまでだが、この人たちは男の欲望や親兄弟の腹を満たすためだけに生まれて来たのか、そこまで利用しておいて故郷では存在を恥とされているという、およそ人間の醜さを全て体現したような現実に同じ女として身が焼かれる思いがした。もちろんその分読ませるのだが…人間の、他人の不幸を快楽とし野次馬根性を満たすような気分にさせることもまた間違いない。
 
物語としては、名前を変え存在し続けるある遊郭で発生する遊女連続飛び降り事件と遊女の亡霊の謎を刀城言耶が解き明かすこと、それだけである。そこに確証はないしあくまで言耶の推理でしかないのだが、緋桜や亡霊の正体、その方法などはいちいち理に適っていて感心するほかなかった。怪異を頭から否定するのでなく、頭で限界まで考えた末合理的な説明がつくならばそれを良しとする、という作品姿勢にも好感が持てる。内容が内容だけに好きかと言われると難しい問題だが、さすが毎回ランキング本を席巻し続ける刀城言耶シリーズだけのことはある力作である。