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欺瞞の殺意  (ねこ3.8匹)

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深木章子著。原書房ミステリー・リーグ。

無実にもかかわらず「自白」して無期懲役となった元弁護士と事件関係者との「往復書簡」は、「毒入りチョコレート」殺人をめぐる推理合戦となり、やがて「真相」のぶつかり合いが思わぬ方向へ物語を導いていく。書き下ろし長編。(裏表紙引用)
 
深木さん三冊目。2021このミス&本ミス第7位作品。
 
始まりの舞台は昭和41年。資産家楡家で発生した毒殺事件は、当主治重の逮捕によって幕を閉じた。判決は無期懲役。当時の関係者がほとんど鬼籍に入った42年後、仮出所した治重は、楡家の生き残り橙子に手紙を投函する。実は治重と橙子は愛し合っており、治重は実は犯人ではないと言うのだ。突然の愛する男からの手紙に驚喜した橙子は自身の推理を披露する。やがてそれは2人の間で推理合戦の様相を呈し…。
 
「毒入りチョコレート事件」と同じく多重解決型ミステリー。もちろんこれでは新しさも何もないのだが、手紙を送り合う老人2人がお互いを想いやっている、というのが他ではあまり見られない特徴かな。どうもそのあたりのノリが昭和でマジメくさくて読んでいて小っ恥ずかしい。しかし読み進むうち2人の関係性がどんどん開かれていき、単に犯人を推理する、というだけではない面白さがあった。さらに往復書簡を元にした事件も発生するので、飽きずに読める。
 
結末がどこにあるのか分からずに翻弄させられるのがこういうジャンルの肝だと思うが、真相が判明してからがちょっと肩すかし。もっとこの犯人が犯人だったことに的を絞っていればブレなかったかも。最後は別にこれ以上の真相がないのに色々と引っ張るので蛇足感が強かった。
 
うーん、難しいな。。実は深木作品を読むのをやめたのは、「優等生すぎる」だったのだが、この作品でその印象が覆ることはなかった。。特に冒頭の登場人物を長々と説明する段階で退屈さが増して行った時に予感はあったが。まあ往復書簡は面白いので読んで損はしない、かな。