すべてが猫になる

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許されようとは思いません  (ねこ3.9匹)

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芦沢央著。新潮文庫

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた―。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。(裏表紙引用)
 
芦沢さん二冊目。「今だけのあの子」がとても好みだったので話題になったこちらに挑戦。うん、これも黒くて構成が巧みで好み。
 
「目撃者はいなかった」
営業マンの修哉が自分の発注ミスを誤魔化すために色々画策するお話。よくこんな性格で社会人やってこれたな、と思うほど倫理観も遵法精神もない。運送屋に化けたり35万円を自腹で払う行動力はまっとうに仕事で発揮しろよ。。運送屋のフリをしている時に交通死亡事故を目撃してしまう修哉が死亡したほうの男の奥さんに付きまとわれる。ウソにウソを塗り重ね破滅しようとしていく修哉にイライラしつつ、奥さんの仕掛けた罠にビックリ。こんな展開になるとはね。執念すごいわ。どうでもいいけど、「黒猫を見たら一旦家に帰る」というジンクスって実行可能なのか…?通勤中や仕事中、街に出ている時だったらどーすんの。一旦帰るの?
 
「ありがとう、ばあば」
子役で売り出し中の孫、杏に寒空の下ベランダに締め出されたばあば。マネージャーとして厳しくしていたのを恨まれていたのか?普通なら、ばあばが子どもの気持ちを斟酌できなかったりする姿にヤキモキさせられるもんだけど、このお話はなんだか違う。太っていた頃の写真なんて年賀状にしないでやって欲しいし。杏は自分から子役をやりたいと言い続けているし。なんだか不気味。こんな思考回路の子どもだったとは。。。コワイ。
 
「絵の中の男」
売れっ子画家の浅宮二月は、夫を匕首で刺殺した。その後近くの空き家に逃げ込んでいるところを逮捕されたが、事前から用意していたとしか思えない。二月の凄惨な過去の体験などから事件の真相を紐解く物語。才能がありすぎるというのも…。狂気と紙一重なのかも。。
 
「姉のように」
虐待により逮捕された姉。身内に犯罪者が出ると、自分も同じような目で見られるのか?というお話。とにかく夫にイライラ。完全に結婚する相手間違えたね。。こういうのを読むと、自分なら絶対大丈夫って思えないんだよね。。ラストに読者への引っ掛けがある作品だけど、ラストの刑事の台詞は納得いかないな。全員が全員、犯罪者とその身内は別人格だと割り切ってくれるわけがない。口ではなんとでも言えるよね。
 
「許されようとは思いません」
村八分にされていた祖母の納骨のために、檜垣村へ帰ってきた青年とその彼女。祖母がなぜ殺人を犯したのか、なぜ「村十分」にされていたのかが語られる。彼女の新たな視点によって真実が明かされるのがいい。これ、「嫁」っていう立場の読者なら大なり小なり祖母の気持ちは汲み取れるんじゃないかな。
 
以上。最初の二篇が圧倒的でそのレベルが続けばかなり総合評価は高かった。いや、他もそれなりに良かったのだが。。どれも、「なぜそれでそこまで追い詰められる?」という常人には理解不能な心理を扱っていて、描写がうまいので読ませる。芦沢さん、読破するぞー。