すべてが猫になる

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さらさら流る  (ねこ3.8匹)

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柚木麻子著。双葉文庫

コーヒーチェーンの広報部で働く菫は、かつての恋人・光晴が撮影した自分のヌード写真をネットで偶然発見する。親友や家族、弁護士に助けられ写真を消去するために動きながら、光晴と過ごした日々を思い起こす。彼と一緒にいると、いつも自分が自分でなくなるような感覚に陥っていた―。ひとりの女性の懊悩と不安をすくいとりながら、一歩ずつ前進する姿を描いた長編。(裏表紙引用)
 
リベンジポルノをテーマとした柚木さんらしい作品。
 
リベンジ、とは厳密には違うかもしれない。画像を所持していた本人に流出させる意図はなかったのだから。しかし嫌がる彼女のそのような画像を撮影し、削除したと偽って別れてからも何年も所持していたのというのは軽蔑の対象だろう。この作品では、自分の裸の画像がネットに拡散され、男性たちの悪意や興味のコメントにさらされた女性・菫が過去の恋と今回の事件をきっかけに自分を見つめ直し、歩き出す姿が丁寧に描かれている。菫の家族はとても仲がよく、ちょっと変わった人たちの集まりでもある。それと対称に、当時の恋人光晴の家庭は幸福とは言い難く、育った環境に難があるの典型だった。まあ若い頃に完璧な相手を選ぶなんて能力はない人がほとんどだろうし、承認欲求だって持て余しているだろう。それを非難する気はないが…。とても印象的なシーンがあった。
 
菫が会社の頼れる先輩女性にこの問題を打ち明けたところ(「何でも悩みを話して」と促されての行動)、その先輩が言い放った「そんな相談されても…」「あなたがそんな写真を撮らせるような人とは思ってなかった」という言葉である。菫は家族にも友人にも恵まれ、彼らは皆菫の味方だった。それが突然、「一般の認識」というものにぶち当たった菫。おそらく、私だけではなく、ほとんどの読者が同じように思うだろう。しかしこの先輩への強烈な嫌悪感と同時に、この醜い人間が自分の鏡像なのかという羞恥心も生まれた。もちろん色々なケースがあるし、本人に言うか言わないかの差はあるだろうが。関係性も重要だ。まあそれはともかく、一般男性(の一部)が「恥ずかしがる女性、嫌がる女性」に興奮を覚えるという特性に焦点を当てた作品に不快な要素がないはずはなく、終始心がザラザラする読書だった。
 
最低男の光晴はともかく(30歳になってまだ義母のせいとか言ってんのか)、菫が最後に下した決断は間違いではないと思う。本人が自分を認め、堂々と生きていられれればそれでいいのだ。もっと不愉快に終わるだろうと思っていたので思っていたより爽快だった。ただ、光晴の過去なんてどうでもいいしこの男が一歩踏み出すかどうかなんてもっとどうでも良かった。それだけ余計。