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屋上  (ねこ4匹)

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島田荘司著。講談社文庫。

自殺する理由がない男女が、次々と飛び降りる屋上がある。足元には植木鉢の森、周囲には目撃者の窓、頭上には朽ち果てた電飾看板。そしてどんなトリックもない。死んだ盆栽作家と悲劇の大女優の祟りか?霊界への入口に名探偵・御手洗潔は向かう。人智を超えた謎には「読者への挑戦状」が仕掛けられている!(裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ第29弾。
 
世間ではバカミスと呼ばれている作品らしい。それも納得の、奇想天外を超えたトンデモビックリミステリであった…。。とにかく読ませる筆力は素晴らしく、540ページある大作をほぼ1日で読み終えた。御手洗潔は340ページ過ぎてから登場。
 
盆景作家の安住の呪い?U銀行の屋上にずらずらと並べられた盆栽。その水遣りに屋上へ上がった行員たちが次々と転落死を遂げた。係長住田は絶対に彼らは自殺ではないと断言するが警察からはまともに相手にされない。1人だけ助かった女子行員、ホースから出しっぱなしの水、隠蔽された強盗事件、ラーメン屋と仏具屋の親父が買ったロールスロイス…。さあ御手洗潔、全ての謎を解決してくれよ!
 
初期作品とは違い、犯人の悪魔的計画犯行だの緻密に計算された驚愕のトリック、とかは期待しないでもらいたい。悪魔に魅入られた弱い人間たちのドラマ…ホロリ…とかもこの作品には全くない。ちょっとバカな人間たちの愚かな行動やちょっと魔が差しただけの不運な判断が、愚かな人間たちだけの間で連鎖し悲劇を呼んだ…という感じか。ムダの多い行員たちの会話や、完全にいやそれ京都弁しかも舞妓風、な女子行員のエセ大阪弁、モーレツ社員、容姿いじりなどの滑稽さが内容の大半を占めてるんだけど、それぞれの登場人物が狂ってて逆に面白い。「行き遅れ(死語)」の女性がイケメンを見た瞬間押し倒すとか、人生転落中の平凡な男性が満員電車で痴漢に間違えられ逃げて(いや、間違えられてないと思う)後日慌てていたから女性トイレの個室に入ってしまって出られなくなったとか、ギャグでしょこれ。。サンタクロースのおやじのやったことも、そもそもちょっと人としておかしいからこうなったんだしなあ。。常に人を威圧する喋り方とかしてるから自分に返ってくるという。目先のトラブルから逃げてもっと悪い状況になる人間っているけど、、、いやはやダメ人間展覧会みたいだった。
 
御手洗さんが暴いたトリックや真相はなかなか良かった。落ちた理由についてはちょっとそんなうまいこと連続してそうなるかいな、とは思ったが。サンタの行方やトイレ痴漢男のやったことなんかは有り得ないけどすごかったなあ。。
 
まあ今作は、歴史がらみだったり薀蓄入ってたりしなくて非常に良かった。初期レベルは無理だけど、読み物としての面白さではちょっと右に出る者はいないんじゃないかな。