すべてが猫になる

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御手洗潔と進々堂珈琲  (ねこ3.5匹)

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島田荘司著。新潮文庫nex

進々堂京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に、世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は、日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う―。西域と京都を結ぶ幻の桜。戦禍の空に消えた殺意。チンザノ・コークハイに秘められた記憶。名探偵となる前夜、京大生時代の御手洗が語る悲哀と郷愁に満ちた四篇の物語。(裏表紙引用)
 
御手洗潔シリーズ第27弾。
京大生時代の御手洗さんのお話。語り手は京大を目指す予備校生サトルで、いつも行きつけの進々堂で会う御手洗さんと親しくなる。世界一周帰りの御手洗さんの色々な話を聞くのが楽しみなのだ。…という、いつもの御手洗シリーズとはかなり毛色の違うアプローチ。
 
サトルが故郷港町で体験した、学生時代の失恋話。初めて大人に差別のない対応をされたという御手洗さんの言葉が染みる。まあ若い頃の苦い憧れの思い出という感じで特別変わった話でもない。
 
「シェフィールドの奇跡」
御手洗さんがイギリスで出会った発達障害の少年の思い出。重量挙げの才能を見せ始めた少年だが、偏見と差別に打ちのめされる。少年が最後に見せた頑張りが凄い。努力とか忍耐だけではない、「怒り」が原動力なんだろうなと感じた。単なる「スカっとする話」とかではないな。闇が深い。今はパラリンピックとかあるけれど。
 
「戻り橋と悲願花」
騙されて日本で勤労奉仕をする朝鮮人姉弟の話。内容が胸糞悪すぎて読むのが苦痛。戦争というものの愚かしさにウンザリする。日本人も酷いが彼らも迫害されてきた、これが戦争なのだ。ところで彼岸花は私も祖母から怖いイメージを植えつけられたなあ。
 
「追憶のカシュガル
御手洗さんが出会った、街で迫害されているウイグル人の老人の話。ウイグルの歴史や誇りについて長々と。唯一出会えた日本人の友人と何があったのか。それが分かった時は虚しい気持ちになった。気持ちは分かるが…。ダメなことをしてしまったね。その後の彼の贖罪の気持ちの強さに圧倒される。
 
以上。
ミステリではない…。ここ最近こういう歴史物語ばかりだなあ、島田さん。映像化に合わせたんだろうけど、こういうタイトルと表紙でこの内容だったら期待していたものと違った、って人多いんじゃないかなあ。御手洗さんも御手洗さんじゃないみたいだし、サトルのキャラが全然生きていないような。面白いのは面白いと思うのだけど、こういうのが読みたい気分じゃなかったので…うーん、全体的にあんま好きじゃないかな。。。